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【#み展アーティスト・トーク レポ】三原聡一郎 × ドミニク・チェン

KeMCoでは企画展「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」を8/3㈯まで開催しています!
その関連イベントとして、7/8㈪に三原聡一郎氏によるアーティスト・トークを開催しました。対談相手はドミニク・チェン氏(発酵メディア研究者・早稲田大学文学学術院教授)。満員御礼となり白熱したイベントの様子をお届けします📝


はじめに

登壇者のプロフィールはこちら☟

三原聡一郎 アーティスト
世界に対して開かれたシステムを提示し、音、泡、放射線、虹、微生物、苔、気流、土、水そして電子など、物質や現象の「芸術」への読みかえを試みている。2011年より、テクノロジーと社会の関係性を考察するためのプロジェクトを国内外で展開中。近年、これまでの活動を「空気の芸術」として、振動、粒子、呼吸というカテゴリーに基づいたアーカイヴ実験をレシピの形式に基づいて進めている。2024年6月3日から 慶應義塾ミュージアム・コモンズにて個展を開催中。

ドミニク・チェン 発酵メディア研究者
博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員, 株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文学学術院教授。クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現コモンスフィア)理事。Ferment Media Researchを主宰し、テクノロジー、人間と自然存在の望ましい関係性を研究している。著書に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)、『謎床―思考が発酵する編集術』(晶文社)、など多数。監訳書に『ウェルビーイングの設計論―人がよりよく生きるための情報技術』、監修・編著に『わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために―その思想、実践、技術』(BNN新社)など。

https://kemco.keio.ac.jp/member-post/cdominique/

三原さんは対談に際し、「フリーカルチャー」「微生物」というキーワードを出されていました🗝

対談では、ドミニクさんから「レシピ」を通して三原さんが目指すことについての三原さんへの質問が続き、この展覧会の先に広がる三原さんの制作、そして公開されたレシピのこれからの足取りに期待が広がる内容となりました✨
本noteではトークの中から一部の話題を抜粋してお届けします✉

対談の全容はKeMCoのYouTubeで公開中!
☟チャンネル登録もぜひ☺

「レシピのレシピ」=作品のレシピを作るに至るまで

対談冒頭、三原さんから今日に至るまでのお話が出ました。(7'50''あたり~)

メディアアーティストである三原さんは、元々、
三上晴子、フェリックス・ヘスという二人のメディアアーティストの作品に関わった仕事の中で、「どういう風にのこしていくのか?」という問題に直面した経験が強いモチベーションになっているそう。

三原さんはご自身の制作方法自体、フリーのオープンソース・ハードウェア/ソフトウェアに恩恵を受けている、と仰います。
そこから生まれた興味が……

「自分のつくり方を公開する方法をつくれないか?」
「物質としての作品はいずれ滅びてしまうけれど、アイディアを生き残らせていくことで、その時・その場所でできる技術でもって、つくってもらうことでどうなるのか?
真剣に読み込んだ上での誤読が起きたときに、自分のアイディアがどうなってしまうのか。予想外の完成物が得られたら面白い。」

三原さん発言より抜粋・要約

そして、それは単なるつくり方の保存、ではないようです。
「芸術の方法として、具体的につくる方法に加えて、何を面白いと感じたのかというタネを残していく方法を模索した結果として」のレシピをつくりたい、のだそう。

《8'17''》レシピの一部

三原さんから発された、「真剣に読み込んだ上での誤読」という言葉は、レシピの伝え手としての覚悟のようなものを感じる重みを伴うようで、聞いていた筆者の記憶にズドンと残っています。その理由はのちに判明。

レシピと権利…レシピはアーティストからの挑戦状?

話題は「フリーカルチャー」「オープンカルチャー」へ(18'50''頃~)

ドミニクさんは、アーティスト/クリエイター/著作権者が自分の作品の権利について意思表示するためのライセンスの仕組み=クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC)に関わってこられ、ご著書『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社、2012年)でもこの話題を扱っておられます。

一方、レシピ自体は、著作権がない・付けられないもの。具体化していないアイディアなので著作権がないのだそう。
では、三原作品の「レシピ」は、「フリーカルチャー」「オープンカルチャー」の視点でどう理解できるのか――。

「作ってみた」をどう受け止める?

Cookpadの「つくれぽ」から始まり、今やレシピ×デジタルの世界で定着している、「つくってみた」レポ。
ドミニクさん→三原さん:「これが三原さんのレシピではどうなるのか?つくれぽが出て来る状況になることを三原さん自身は望んでいるのか?」(25'30''あたり~)

三原さんは、「そんなに簡単に手を出されないだろうと睨んでいる」のだそう。

やってみたら結構難しい。個人のリソースで挑むにはコストパフォーマンスが見合わない。(作家自身が)制作時点で、個人の限界を超えたとろに芸術があると思って取り組んでいるので、なかなかそこまでたどり着けないだろうと思う。
でも、それでもやってみてくれる気骨のある人の何かを期待してる。
芸術は裏側が見えないことが多いけれど、それを全部見える状態にしたときに何が起きるのかを知りたい

三原さん発言より抜粋・要約

また、三原さんは「レシピには著作権がないけど、レシピから制作された創作物には著作権が存在する、のが良い、というか自動的にそうなってしまっている。」とも仰っていました。

三原さんのお話に、ドミニクさんは「挑戦状のようだ」と返されていましたが、筆者にも同じように聞こえました。
一方でレシピによってそう簡単に真似できるものではないことを一番よくわかった上で、「真剣に読み込んだ上での誤読」にどこか期待を寄せている三原さん。

歩き出したレシピ

八角塔カフェコラボメニュー「  ・ア・ラ・モード」はレシピが独自に歩み始めた感じがして楽しい(by三原さん)

現在、慶應義塾大学三田キャンパス内・旧図書館横のカフェ八角塔では、「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」展コラボメニュー「  ・ア・ラ・モード」を展開中(~8/3㈯まで)。
三原さんは、「作品からエッセンスを抜き取って自分たちのコンテクスト(文脈)で勝手にやって(展開して)くれるのは結構面白いなと思っている」そして、このコラボメニューでは、「それがすでに起こっている」と仰っています🍮(46'40''頃~)

☝八角塔カフェさんに、「空気の芸術」「振動」「粒子」「呼吸」のキーワードをお伝えして出来上がった期間限定メニューです。

展示中の作品、《  鈴》(2013)

《  鈴》

三原さんは、放射線を扱った風鈴様の作品《  鈴》で、知覚できない放射線の存在を全角2マス空けで示しました。対して、期間限定コラボメニュー「  ・ア・ラ・モード」では、見た目がプリン・ア・ラ・モードながら真ん中のプリンに当たる部分が空白のスイーツとして透明につくられているので、2マスの空白が置かれています。

そして、「  ・ア・ラ・モード」には10種類の「粉」が用意されており、お好みの3種類を選んで振りかけて食べ、楽しむことができる仕様となっています。この粉の仕様はRoom2に展示中の新作《粉を挽く》にインスパイアされたものです。

《粉を挽く》

レシピをつくって、受け取り手が自分で面白がって遊んでほしいという思いが伝わったなと思って、嬉しかった。

三原さん発言より抜粋・要約

コール&レスポンスみたい。レシピの応答として「  ・ア・ラ・モード」が返ってきたことがモチベーションだし、お金ではない報酬ということですよね。
タイトルとしての応答であり、プリンのつくり方も応答している。

ドミニクさん発言より抜粋・要約

レシピを通すことで、アーティストや制作者の側に立ってコミュニケーションをする場が広がっていくようで、ワクワクする一幕でした🤩

おわりに

本note記事でご紹介した話題のほかにも、本編では「レシピ化しない作品/できない作品」(33'10''頃~)や「統一言語としてのレシピと作品の体系化」について(50'30''頃~)、「プロセスの面白さへの誘い」(1°21'22''頃~)など、会場からの質問含め大充実の2時間となりました👏

質疑応答の中では、この夏に「レシピ」に挑む中学生たちがいるかもしれない・・?ことも明らかに……。本展の展示により、三原さんの手を離れて歩き出してゆく「レシピ」が今後どのように姿を持ち、三原さんとコール&レスポンスするのか。三原さんは今後、「レシピ」とどのように向き合ってゆくのか。レシピのこれからに目が離せません✨

展覧会閉幕まで、あと一週間!この機会をお見逃しなく👀🏃‍♀️💨


「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」
会期|2024年6月3日(月)­-8月3日(土)[土日祝休館]11:00~18:00
特別開館|6月22日(土)、8月3日(土)
臨時休館|6月24日(月)、7月29日(月)
入場|無料、事前予約不要
主催|慶應義塾ミュージアム・コモンズ
特別協力|株式会社ニソール
協力|株式会社田村商店
京都芸術センター 制作支援事業


文責:KeMiCo Honoka