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慶應義塾大学アート・スペース「アート・アーカイヴ資料展XXIII 槇文彦と慶應義塾II:建築のあいだをデザインする」展

現在、慶應義塾大学アート・スペース(KeMCoから徒歩5分ほど・南別館)にて展覧会「アート・アーカイヴ資料展XXIII 槇文彦と慶應義塾II:建築のあいだをデザインする」が、12月16日(金)まで開催中です。

会場(慶應義塾大学アート・スペース)の様子

今回は、担当学芸員の新倉慎右さんと学芸員補の吉岡萌さんに、この展覧会の見どころや、槇建築の魅力についてお話を伺ってきました…!🎤

槇文彦って?

槇文彦(まきふみひこ 1928-)は、慶應義塾出身の建築家で、表参道の「スパイラル」や代官山「ヒルサイドテラス」などの設計を手がけたことでも知られています。
また、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)にキャンパス建設当初から一貫して関わり、建築物やその配置などグランドデザインを手がけました。

「群造形」と「あいだ」

今回の展覧会のコンセプトは「建築のあいだをデザインする」です。

槇は、個別の建物自体というよりは、それぞれ同じ要素を持った建築同士が、互いに関係し合いながら並んで全体を作っていく「群造形(Group Form)」という考え方に注目していました💭

SFCキャンパス正面前

キャンパス内の建物は、グリッド状の幾何学的要素が組み合わされたモダン建築で、それぞれ異なりながらも互いにリンクしあっています。

この「群造形」というコンセプトは、1960年代に槇が建築家として事務所を開く以前から、ずっと考えていたものなのだそうです。

SFCでは、このコンセプトが十全な形で実現したという点で、槇のキャリア上の意義が大きいといえるのだとか💡

SFCの設計図面を前に、「群造形」について説明する新倉さん

ここで、今回の展覧会タイトルでも触れられている「あいだ」という言葉が、一つの重要なキーワードになります👀

「群造形」のコンセプトのもと、SFCは、建築と建築の間に副産物的に空間が生まれるのではなく、「あいだ」の空間が想定された状態で、設計されてゆきました。

こうした「外部空間」(建築の周りの何もない空間)は、SFCにおいて非常に重要な役割を果たしています。

SFC的オープンスペース

新倉さんによると、槇は自身の都市論のなかで、広場の重要性について、「オープンスペースから社会が作られ、都市の柔軟性が生まれる」のだと指摘しているそうです📖

しかし槇は、SFCに大きな広場は設置しませんでした。

槇は、自律分散協調というキーワードに共鳴しており、SFCは設計にはこれらの理念の影響が見られるのだそうです。✏️

図書館、教室棟、研究棟…
キャンパス内のさまざまなポイントで、同時多発的、かつ集積回路的にさまざまな人の流れが生まれます。
そしてまた、その流れがぶつかることで、人々の多様なふるまいが生まれるのだそうです⚗️

キャンパスの正面広場に、授業棟と異なり、(授業前や授業後などに)人の流れが集中しにくく、さまざまな時間帯に分散的に人が出入りする図書館が面しているのもまた、槇のSFC像がよく現れています。

人の出入りや機能が集中するような中心的なポイントをあえて作らない(「分散」)ことで生まれる、キャンパス内のさまざまな人の流れにより、建築も活性化するのだそうです✨

槇の「振り切らない」設計

新倉さん曰く、槇の設計のもう一つの特徴として、「振り切らない」スタイルが挙げられるそうです。

SFCの建物は幾何学的で、いわゆる西洋的なモダニズム然とした、印象を受けますが、一方で「空間のひだ」と呼ばれる、折れ曲がった通路からは、伝統的な日本的要素も感じ取ることができます💭

そのほかにも、SFCにはガリバー池(通称鴨池)と呼ばれる大きな池があります🦆
この池は、SFC生にとって、ランチを食べながら友人とおしゃべりを楽しんだり、静かに読書をしたり、昼寝をしたり…と、思い思いの時間を過ごすことができる場所なのだそうです。

すなわち、コミュニケーションから新たな発想が生まれるオープンな場所でもあり、1人で安心した時間を過ごすことができる、クローズな場所にもなります。

先ほど、SFCには大きな広場が設置されなかったとご紹介しましたが、このように、槇は広場を完全に取り除いたわけでもありません。

槇の「振り切らない」設計は、建物や空間の用途を固定してしまわず、キャンパスを利用する人々の「自律」性を尊重する、槇らしい柔軟な姿勢が感じられますね💡

SFCで、歩く

道もまた、槇設計の重要なキーワードのうちの一つの「外部空間」であり、色々なものが生まれる空間として捉えられています。

キャンパス内の道は設計されたものですが、その道をどのように歩いて、何を感じるかは、キャンパスの利用者に多くが委ねられています。

アメリカの著作家レベッカ・ソルニットは、「歩く」という行為について以下のように述べています。

歩くことの理想とは、精神と肉体と世界が対話をはじめ、三者の奏でる音が思いがけない和音を響かせるような、そう言った調和の状態だ。(中略)歩行のリズムは至高のリズムのようなものを産む。風景を通過するにつれ連なってゆく思惟の移ろいを歩行は反響させ、その移ろいを促してゆく。

レベッカ・ソルニット, 東辻 賢治郎 (訳), 『ウォークス 歩くことの精神史』, 左右社, 2017年

実は、現在KeMCoで開催中の「Altered Dimension」展で個展を開催中の大山エンリコイサムもSFC出身です👀

大山の独自のモティーフ、「クイックターン・ストラクチャー(QTS)​​」は、ストリートアートに強い影響を受けているそうです。

慶應義塾大学アート・センターのYoutubeチャンネルでは、大山エンリコイサムさんを交えて展覧会会場をまわる、インタビュー動画が投稿されています。

SFCの創造性は、キャンパスを設計する建築家のみならず、キャンパスを利用する人々にも多くが委ねられる「協調」によって生まれるのですね。

SFCを実際に歩いて撮影したという動画を紹介する吉岡さん

慶應義塾大学アート・センターのYoutubeチャンネルでは、「Walking around SFC|湘南藤沢キャンパス(SFC)を歩いてみる」と題した映像が公開されています。

実は、筆者はまだSFCを訪れたことがないのですが、この動画を見れば、SFCを実際に歩いているかのような感覚を味わうことができました🚶‍♀️

展覧会は、12月16日までです🗓
この機会にぜひ、槇建築の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

開催概要
会場:慶應義塾大学アート・スペース
会期:2022年10月3日(月)〜12月16日(金)
開館時間:月〜金、11:00-18:00(土日祝日休館)
入場料無料

主催:慶應義塾大学アート・センター
展覧会Webページ:http://www.art-c.keio.ac.jp/news-events/event-archive/artarchive23/

文責 : KOYURI(KeMiCo)