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学生スタッフレポ! 「大山エンリコイサム Altered Dimension」展トーク・イベント|大山エンリコイサム × 青木野枝

トーク・イベント|大山エンリコイサム × 青木野枝

現在KeMCoにて開催中の展覧会「大山エンリコイサム Altered Dimension」に際し、去る11月11日、慶應義塾大学三田キャンパス G-Lab(東館6階)にて「トーク・イベント|大山エンリコイサム × 青木野枝」が開催されました。その様子について、学生スタッフがレポートします。

トーク・イベント当日の会場の様子

イベント開始 登壇者紹介

大山エンリコイサム(美術家)
エアロゾル・ライティングのヴィジュアルを再解釈したモティーフ「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を起点にメディアを横断する表現を展開。2007年に慶應義塾大学卒業、2009年に東京藝術大学大学院修了。

青木野枝(彫刻家)
80年代の活動当初から鉄という素材に魅了され、工業用の鉄板をパーツに溶断し、溶接して組み上げるシンプルな作業を繰り返すことで完成する作品を制作。近年は石鹸、石膏、ガラスなど異素材の作品も発表。

渡部葉子(キュレーター/教授、慶應義塾大学アート・センター&KeMCo)
2006年より慶應義塾大学アート・センターにて、展覧会や各種催事を企画実施する(現代美術のシリーズ展など)とともにアート・センター所管資料のアーカイヴ活動にも関わる。現在は慶應義塾ミュージアム・コモンズの副機構長も務める。

まずはモデレーターを務めた渡部さんの提案で、大山さんと青木さんが自身の作品や関心を互いに紹介することから始め、そして今回の「Altered Dimension」展についての青木さんのコメントを起点に対談がスタートしました。

青木さんが見て印象的だった大山さんの作品

まず青木さんが挙げたのは、《FFIGURATI #428》
作品の一部が二次元から三次元に飛び出して出ている点と、ガラスを挟んで反対側(屋外)から見ても作品が成立している構造が、透明なガラスという素材の特性を活かしていて面白いのだそう。

《FFIGURATI #428》

続いて青木さんが選ばれたのは、Room1の作品群
丸く立体的になっている部分と平面の部分で、(画面が)繋がっているようにも見え、絵巻や屏風絵を連想したのだとか。

《FFIGURATI #435》

そして最後に青木さんが挙げたのが、Room2の作品群
Room2の作品はとても繊細で、大山さんは作品を展示室内で組み立てたのだそうです。
青木さんも過去に何度も、作品を展示室で初めて組み立てることがあったそうで、一か八かの賭けのような感覚で、作品を仕上げた経験についてお話しくださいました。

《FFIGURATI #437-443》

線とポストモダン

Room1の作品は大山さんの既存シリーズ 'unstretched canvas' を展開させた作品ということで、大山さんは 'unctretched canvas' について「キャンバスのようでもあり、壁画のようにも感じられる、メディア(支持体)の面白さが魅力」とコメント。

キャンバスは通常、ロールに巻かれている状態でアーティストの手元に届くのですが、その状態を 'unstretched(「まだ」伸ばされていない)'と表現することがあるのだとか。

大山さんは今回の展覧会のコンセプトを踏まえ、普段キャンバスが巻かれている芯から構想を得て、2-3次元の揺らぎを生み出しました。

'unstretched canvas' について紹介する大山さん

加えて大山さんは制作過程について、まず先に墨で線を描いてからスプレーを用い、「身体の動きから直接的に転写されていく即興的な線の上に、紙に設計したドローイングを投影して構築している」と明かしました。

イギリスの社会人類学者ティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』の中で、「まがりくねった軌跡」「透明な連結器」の二種類の線について紹介し、身体運動の痕跡を残す筆記具として鉛筆やバイオリンを挙げます。
曲がりくねった軌跡という、具体的で身体的な行為(ex.  道沿いに歩く)は、近代の過程で、点と点を透明な線で結ぶ、抽象的で身体から切り離された行為(ex.  飛行機で移動する、インターネットでメールを送る)へとシフトしていきました。

QTSは概念的な存在であり、直接目に見ることはできません。

しかしQTSは物理的表面と接触することで、個別具体的な現実、すなわち(一点ずつ番号が割り振られる)Figurattiという作品になります。

大山さんの身体の動きにより、QTSが直接的に転写されたFigurattiという身体運動の痕跡は、二つの線の概念を横断的に行き来しているといえます。

鉄とポストモダン

身体的な動きに関連して、青木さんは自身の作品について「自分の彫刻を作るときに、今まで自分が見たことがないものをこの世に出して、自分が見たかったものを作るが、(作品の中を)自分が動くことで作品がどんどん変わる。風が作品の中を行き交っていって、自分が感じる喜びが次の作品へつながる。」と話しました。

ここで大山さんは、青木さんの「風が行き交う」という表現が気になったとし、話題は鉄という素材に変わりました。

青木さんが作品の素材に鉄を使用していることについて、大山さんは「風が通ることを連想させると同時に、鉄という重い素材でありながら、どんどん空間を横断してフレームに収まらない軽やかさを連想させる」とし、その二面性、両義性に関心を感じると話しました。

青木さんの過去の作品について話が盛り上がりました

すなわち青木さんは、鉄といういかにも重そうで、典型的なモダンというイメージが強い素材を用いながら、同時に(空間の横断という)ポストモダン的コンセプトを、軽やかに組み合わせているといえます。

大山さんは、一見相反するこれらのコンセプトが両立している要因の一つとして、「風通しの良さ」がキーワードにあげられるのではないかと話しました。

一方で青木さんは、鉄をそのように捉えたことはなかったとし「身近な素材で作品を作りたいと思っていて、その素材が、自分にとっては鉄だった」、「鉄は地球にも体内にも普遍的に存在する、近しさを感じる素材であり、いずれ土に戻るという安心感もある。」と話しました。

大山さんは、今回青木さんとのトークイベントを希望した理由について、「(青木さんが)空間にドローイングを描いている実践をしているように感じた」からであると明かします。

青木さんは一時期、自身の作品を、展示室の壁や天井に向かって伸ばしていくという試みをしていたと明かします。

大山さんは、そうした青木さんの試みを「ドローイング的」と評しました。

大山さん曰く「ドローイング的」なものとは、ストリート・アートで(元の壁を超えて)別の壁にまで線をつなげるように、線が自由に伸びて、画面の外までも無限に伸びていくような性質のことを表します。

大山さんは青木さんの作品について、「(作品の)一つ一つのユニットが、ある種のDNAのように広がっていくことで平面から立体作品になっている印象がある。」と述べました。

青木さんの作品紹介

そうしたユニットの集合が、外郭を持ったより個体性がある一つの作品にもなれば、どこにも中心があるわけではなくその中を歩けるというような空間にもなる。

大山さんはそうした点にも、青木さんの作品が、ポストモダンとモダンを行き来しているような印象を持ったのだそうです。

意外な共通点

渡部さん曰く、青木さんは当初、大山さんから対談相手として打診されたことに対して、大変驚いたのだそうです。

確かに一見、意外な組み合わせの大山さんと青木さんですが、お話を聞くと2人の意外な共通点がいくつも見えてきました。

今回のシンポジウムを通して、それぞれの作品世界の広がりが不思議なところで重なっていたことを知ることができました!

イベントを見逃した方は…

トークイベントは大変盛り上がり、実は、こちらの記事では紹介しきれなかったお話がまだまだたくさんあります…。

「大山エンリコイサム Altered Dimension|トーク・イベント|大山エンリコイサム × 青木野枝」は、現在KeMCoのYoutubeチャンネルにて公開中です。

イベントを見逃された方はもちろん、もう一度お二方の話を聞き直したい…!という方もぜひ、こちらからご覧ください。

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「大山エンリコイサム Altered Dimension」展
2022年10月17日(月)~12月16日(金)
月火水= 11:00–17:00、木金= 11:00–19:00 
[土日祝休館](最終入場は閉館30分前まで)
※特別開館|11月5日(土)、12月3日(土)11:00–18:00
※臨時休館|11月7日(月)、12月5日(月)
慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)
どなたでもご覧いただけます

展覧会詳細リンク

文責 : KeMiCo KOYURI


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