展覧会で「推し」を見つけよう!KeMCoメンバーに推しを聞いてみた
突然ですが、皆さんには「推し」はいますか?
「推し」とは、特にイチオシのモノや人のこと。好きな芸能人、キャラクター、好きなコンテンツなどのことなのです!
私も今度「推し」の出演する映画が公開されるので、とても楽しみにしています。
ところで、展覧会で「推し」というとあまりピンとこない方もいらっしゃるかもしれません…ですが、展覧会こそ「推し作品」を見つけるチャンス。
今回は、三田キャンパスで開催中の「我に触れよ(Tangite me):コロナ時代に修復を考える」展の「推し」を、KeMCoメンバーに聞いてみました!
※この記事はInstagramで連載していた「わたしの推しもの」をまとめた記事です。
機構長 松田隆美先生
まずはKeMCo機構長、松田隆美先生の「推し」をご紹介します!
松田先生は中世イギリスの文学、書物史が専門ですが、KeMCoの資産を活用して、中世の写本零葉(※)や西洋の絵入り本を「もの」として魅力的に展示する斬新な環境作りに興味があるのだそう!
※零葉(れいよう):出版社や印刷所が出した完全本の状態に対して,後日,一部のページのみの不完な状態になったもの,あるいは意図的にそのようにしたもの(『図書館情報学用語辞典 第5版』)
そんな松田先生の推し作品はこちら!👇
西脇順三郎《作品》
松田先生に推している理由をうかがったところ、
ノーベル文学賞候補にも何度かなった、詩人で英文学者の西脇順三郎のスケッチ。習作ですが、線の丸みは西脇の詩世界に通じるものがあるように感じます。
西脇順三郎は慶應義塾に深いかかわりのある人物で、教鞭をとっていたこともあるのだとか。
白い画面に人物と動植物とみられるものが線で描かれているこちらの作品は南会場(三田キャンパス南別館1F アート・スペース)でご覧いただけます。
副機構長 重野寛先生
続いてご紹介する重野先生はなんと…理工学部の先生!
重野先生は情報工学、特に情報ネットワークやシステムの研究をしています。ミュージアムでも理工学部の先生が関わっているのは珍しいのではないのでしょうか?KeMCoのデジアナプロジェクトに深くかかわる重野先生の「推し」はこちら!
大熊氏廣、鈴木長吉《福澤諭吉還暦祝 灯台》1897年
重野先生はこの作品を見て、技術や、あるいはもう少し広く文明といったものの強さも感じさせてくれるように思ったのだそう。推している理由を尋ねたところ…
よほど波の荒い場所か、あるいはこれから嵐が来ようかというシーンと思われる。土台部分を荒波にさらされながらも、岩礁と一体となったかのように確固として起立する灯台の存在感が印象的。一方で、塔の上部の精巧な感じも面白い。いくつかの金属が使われており、その素材感と色合いもこの作品の魅力と感じる。是非、作品をご覧いただければと思います。
今にも波しぶきが立ちそうなこちらの作品。ちなみに、現在は灯台の窓が開いており、中の作り込みまで見ることができます。
本間友先生
本間先生はアート・アーカイヴや研究アーカイヴへの関心から、最近は大学をはじめとする研究機関の活動やリソースを社会と接続する方法について研究・実践を行っています。元々はイタリア・ルネサンスの祭壇画を研究していて、宗教美術が展示に出ると非常に前のめりになるのだそう!
多岐にわたる興味をお持ちの本間先生の「推し」とその理由は…👀
河野通勢《箱根芦ノ湖風景》
前景から後景へなだらかに繋がっていく風景をみていると、芦ノ湖の湖畔をふらふらと散歩しているような気持ちになります。
木陰やヒュッテにも、どこか人の気配を感じます。河野通勢や、草土社の作家達が参照した北方ルネサンスの作品にも、絵の中を逍遥するような風景表現があるので、そういった影響もあるのかもしれません。河野通勢は、聖書の物語も沢山描いていて、興味が尽きない画家です!
芦ノ湖は富士山が見える景勝地としても知られており、もしかしたらこの記事をご覧になっている方の中にも行ったことのある方もいらっしゃるかもしれませんね!
松谷芙美先生
松谷先生は日本美術が専門の先生で、特に「関東水墨画」という、室町時代に関東地方で活躍した絵師や画僧の作品について、その原本に加えて、江戸時代の模写本や画家伝などを調査対象に広げて研究しているのだそう!
松谷先生の推しは特に思い出深い作品なのだそう。
和田嘉平治《福澤諭吉像》1932年
端艇部の合宿所の食堂で、テレビとバナナの箱の間に鎮座する、この像を見た時の印象が強烈でした。当時の主務の学生さんから、アート・センターの代表メール宛に、修復の相談が持ち込まれ、修復が実現。学生と、大学教員、専門家の関わりがあってこそ、展示室で、すっきりとした姿の福澤像をご覧いただけます。
テレビとバナナの箱とは…衝撃的ですね👀
本展では東会場(KeMCo)Room1でご覧いただけます。どのように修復されていったのか、ぜひ会場でご確認ください。
続いてのご紹介はこの方!
学芸員 長谷川紫穂さん
KeMCo学芸員の長谷川さんは芸術とテクノロジー/サイエンスの交差について、メディアアート、バイオアートなどの分析を通して研究されています。学術的研究領域とつながる表現のあり方にも関心があるのだそう。
そんな長谷川さんの推し作品は…
大山エンリコイサム《慶應義塾志木高等学校 壁画》2003年
こちらは展示中の様子で、展示では志木高出身の大山エンリコイサムさんの壁画作品の模型と映像をご覧いただけます!推している理由を尋ねたところ、
大山エンリコイサム氏が卒業時に描き始めた壁画で、アーティストとしてのスタート地点が垣間見える一作品。今回、作品の映像記録と1/10スケールの模型が展示されています。校庭の片隅に20年近く佇み、後輩たちの伝説(?)となっている点にもグッときます。今後、保存のためにどのような手立てがとられていくのか、大変気になる作品です!
とのことでした!大山エンリコイサムさんの作品はKeMCo StudI/Oにもあり、KeMCo StudI/Oの特別開室日には時代の異なる作品をご覧いただけます。
学芸員補 島田和さん
(写真に並んでいるのは菊池一雄《青年》。三田キャンパスの西校舎横の広場でご覧いただけます。)
最後にご紹介するのは、学芸員補の島田さんの推し。
島田さんは快慶の仏像を勉強している大学院生で、今回の展覧会では彫刻作品の解説を担当されました。さまざまな観点で彫刻を語れるようになりたいと思い、日々修行中とのこと…そんな島田さんの推しはこちら!
長谷川栄作《引接》1917年
奈良県新薬師寺の薬師如来坐像からインスピレーションを得て造った作品と言います。木の質感や包容力のオーラには力強さがありますけれども、しなやかなポージングが描く曲線は繊細でもあります。子細に見ると、人体の観察に基づいた誠実な造形という印象を受けつつ、少し頭を大きめにして、展示室では圧倒的存在感を放っています。文展特選首席の気合いがひしひしと伝わる名作だと思います。
作品名の読み方に困った方もいらっしゃるのではないでしょうか…こちら、「いんじょう」と読みます。仏教用語で、「仏が世の人々の手を取って救うこと。または、法会などの功徳の力によって世の人を救うこと。」(『例文 仏教語大辞典』)という意味なのだそう。
ひときわ存在感のあるこちらの作品は、東会場(KeMCo)でご覧いただけます!
「推し」を見つけよう!
開催中の「我に触れよ」展では、今回ご紹介した作品以外の作品や、修復に関するさまざまな道具類、素材、修復記録なども展示されています。
(展示作品は、Keio Object Hubでもご覧いただけます)
また、会期中に行われたシンポジウムやギャラリートークのアーカイブ動画もアップされています。
会期も終了間近の本展。(-12/3(金))
皆さまもこの機会に新たな「推し」を見つけに行きませんか?
文責:KeMCoスタッフ Jim