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【線をなぞる】慶應義塾大学アート・センター企画展示「Artist Voice III: 駒井哲郎 線を刻み、線に遊ぶ」のインクルーシブ展示に密着!

2023年10月10日~2024年1月26日の会期で、慶應義塾大学アート・センター(南別館・KeMCoから徒歩5分ほど)にて「Artist Voice III: 駒井哲郎 線を刻み、線に遊ぶ」が開催されました。この展覧会に合わせ、KeMCoにてインクルーシブ展示用の教材を製作し、実際の展示に出展しました!

今回は、教材の製作に携わった慶應義塾大学アート・センターの新倉慎右さんと、KeMCoの宮北剛己さんにお話を伺ってきました📝


駒井哲郎とは…?

 
今回の展覧会で取り上げられた駒井哲郎。一体どんな人物なのでしょうか?

駒井哲郎(1920~1976)
昭和期に活躍した銅版画家。慶應義塾幼稚舎、慶應義塾普通部で学び、普通部時代から制作活動を開始。銅版画による表現を生涯一貫して探求し、日本における銅版画のパイオニアと評される。

 幼少期を幼稚舎と普通部で過ごした慶應義塾にゆかりのある人物。展覧会では代表的な版画作品をはじめ、慶應義塾の機関紙である「三田評論」や「塾」に提供した挿絵の原画、また駒井に関連する資料が展示されました。

 駒井の作品で特徴的なのが「線」。駒井の版画作品では「エッチング」とよばれる凹版画の技法が用いられており、硬質的な線が特徴です。エッチングは金属板を腐食させて製版する技法であり、工程に金属板をニードルで引っ掻く作業があります。引っ搔かれた線は印刷後の画にはっきりと残る為、「線」は駒井の作品を印象付ける一つの要素となります。

アート・センターへ出発!

「駒井展」のインクルーシブ展示を見に、さっそくアート・センターへ。
展示は、アート・センター1階の「アート・スペース」で行われています。展覧会を担当され、また今回のオブジェクト製作に携われた新倉先生に、駒井展のインクルーシブ展示を紹介して頂きました!

KeMCo×駒井展

新倉さん
「今回はKeMCoと協力し、駒井の作品を触れる展示という形で再現しました。版画作品や手書きイラストの作品が、レーザーカッターを用いた加工で木材・ゴムのプレートの上に再現されており、作品に特徴的な『線』を指でなぞることができます」

触ってみると、線がはっきりと感じ取れます!

線の部分を刻印し、くぼみの部分で作品を再現したタイプと、線を残して周りの部分を彫り、のこった凸部で作品を再現したタイプの2本立て。線を刻印したタイプは作品の繊細さが、線を残したタイプはシャープな線のタッチがより印象強く感じられました!

異なるタイプですがモデルの作品は同じ。全く違う触り心地です!

線をなぞる

新倉さん
「今回製作した教材では、作品に触れることで駒井の描いた『線』をなぞることができます。インクルーシブ展示を意識したオブジェクトではありますが、目の見える見えないに限らず、触覚を通じて駒井の線を追体験する機会を提供します。」

「線を刻み、線に遊ぶ」と展覧会名にもある通り、駒井作品を特徴づける「線」というキーワード。私も作品に触れ、駒井の線をなぞる中で、展示されている駒井作品との一体感を感じました。線をなぞるという行為には、線を描いた作者と鑑賞者を結び付けるような、そんな可能性が秘められているのかもしれません✨

↓駒井展についての詳細はこちらから!

また、アート・スペース次回展の情報もこちらから↓是非ご覧ください!

「ケムスタ」へ突撃!

アート・センターからKeMCoに戻り、今度は8階へ。KeMCoの8階には、KeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ)と呼ばれるスペースがあります!  通称”ケムスタ”と呼ばれる8階では、デジタル技術や3Dプリンターなどの先端技術を用いた創作活動が行われており、KeMCoの学生スタッフであるKeMCoM(ケムコム)もここを拠点に活動しています!今回駒井展に出展された教材もケムスタで作られました!
製作を担当された宮北さんにお話を伺いに、いざケムスタへ💨

KeMCo StudI/OやKeMCoMの詳しい紹介はこちらからどうぞ!

↓KeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ)について

↓KeMCoM(ケムコム)について

線を再現する

さっそく、製作の工程を教えていただきました!

宮北さん
「まずは、新倉先生から頂いた作品のデータをもとに、レーザーカッターで削る部分と削らない部分をパソコンのソフト上で色付けしていきます」

実際の駒井作品の画像データ。これが再現作品の元となります。
作品の各部分に色付けをしていきます。目がチカチカします…。

製作にあたっては、よりリアルに作品を再現する為に、部位によってレーザーカッターの出力を変える必要があったそう。削る部位・削らない部位の他に、レーザーカッターの出力別でも色分けがされています。元の作品と比べると蛍光色でずいぶん派手な見た目に…!

宮北さん
「まぁ、目で見たときにわかりやすい色にしてるだけですよ笑」

その後、決定した出力の数値をレーザーカッターと対応したソフトに入力し、レーザーカッターでプレートに加工を進めていきます。プレートの材質は木材とゴム。加工の容易さやコスト面で材質の決定をしたそうです!

こちらが実際に使用したレーザーカッター。中には製作に使用したとみられる木材が。


みんなにとってより良い鑑賞を

製作の過程で宮北さんが工夫されたポイントも教えて頂きました。

宮北さん
「今回はインクルーシブ展示ということで、目の見えない方でも楽しめるように、というコンセプトでの製作でした。一方で、モデルとなる駒井作品がもつエステティクスは損ないたくなかったんです」

レーザーカッターは、光を収束させて物体に照射することで、切断や彫刻といった加工を行う仕組みです。木材に照射をすると、木材が焦げて変色してしまいます。この特性を逆手に取り、木材の「焦がし具合」でモデルの作品の色や質感を表現し、作品をより視覚的にリアルな形で再現することができます。再現したものがモデルの作品の見た目とあまりにかけ離れていると、戸惑ってしまいますよね💦

見せていただいたサンプル。出力を強めると、照射の跡はより濃い色になります。

【一方でこんな問題も…】
宮北さん「ちょっとこの部分を触ってみてください」
   「あれっ、凹凸を感じません…。」

出力が弱すぎると、生じる凹凸はわずかになってしまい、指で触れただけでは加工の有無が分からなくなってしまうことも。これでは、目の見えない方が楽しめない作品になってしまいます…。

触らせて頂いたプレートのサンプル。
5/10の数値がメモされた部位を触ってみましたが、何も感じず…。

触った時はっきりと凹凸が感じられ、かつモデルとする作品の面影も残した教材の製作を目指す中で、レーザーカッターの出力の調整など、試行錯誤を重ねられたそうです…!

宮北さん
「見える人と見えない人、双方にとってより良い鑑賞を作り上げたいという思いがあります。障がいを持つ方へのオブジェクト製作にあたっては、その辺りのバランスのとり方にも気を使いましたね」

今回のオブジェクト製作は、舞台裏にこのような技術面の試行錯誤もあって実現していたのです!

さいごに✍

駒井展のインクルーシブ展示用に製作された教材を取材しました。今回製作されたオブジェクトは好例ですが、新しい技術の登場が、インクルーシブ展示に新たなオプションをもたらしています。これからのインクルーシブ展示が持つ可能性に思いを馳せると、なんだかワクワクしてきますね!
今回の教材は、駒井展の鑑賞に「線をなぞる」というオプションを付与しました。目の見える方、見えない方の両者が線をなぞり、駒井哲郎に想いを馳せ、また各々がその先に何かを感じる事こそ、今回のインクルーシブ展示がもたらした鑑賞の新たな可能性なのかもしれません。

文責:KeMiCo Hakuto


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