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【#み展】アーティスト「達」によるギャラリーツアー・レポ~後編~

去る8月3日(土)、2か月間に及ぶ#み展こと「三原聡一郎 レシピ:空気の芸術」が閉幕しました👏
最終日には三原聡一郎と展覧会に携わった「達」によるギャラリーツアーを開催。前回のnote記事で、一階エントランスの展示と「達」からのコメントをご紹介しました。

今回は後編!ギャラリーツアーの一同は3階展示室へ。今回の展覧会では、会場にいわゆる解説パネルのようなキャプションは設置されず、SNS等のKeMCoからの発信でもできる限り作品を説明することを避けて、来館者の皆さまに時々で変化する作品を楽しんでもらうことを狙いとしていました。果たして最終日に三原さんの口からは何が語られたのでしょうか👀🌱一部抜粋してお届けします!


いよいよ3階展示室へ

「レシピ」に至るまでの話

今回の展覧会で初めて、自身の作品と紐づく「レシピ」という概念を世に出した三原さん。「レシピ」とは、作家自身が「これが後世に残れば・・」と考える作品の核となる要素を記述しまとめたもの。従来、物理的存在以外も対象とする作品(の情報)を残す役割を果たすものとして、指示書、仕様書、プログラムなどが知られますが、三原さんは「レシピ」というスタイルを選択。

自分の作品を振り返り、環境や技術的な要請から発表後に手を加えていくことが往々にしてあるという三原さん。むしろ残したいのは、作品のベースとなった面白いと思った体験や制作のきっかけ。そして、その作品を作るための材料や準備の手順だと思って、より自由度の高い「レシピ」を作ることにしたのだとか。

《  鈴》(2013)

サウンドアートから制作を始めた三原さんは、音を鳴らす技術を使って何かできないかと試行錯誤されていたと言います。そして2011年、東日本大震災を経験。電源(コンセント)を使うなど、作品でもエネルギーに頼る場面があることから、生活のインフラ全体について考えるきっかけになったそうです。

そのときに、日常の生活空間にも放射線が微量に含まれていることを知って驚き、身体の感覚で知覚できない放射線を静かにモニタリングする装置として、古来魔除けとして使われてきた鈴(風鈴)による音を用いることを考え、本作が生まれたのだとか。
2015年頃より、外側にガラスドームを付けるようになったとのお話もあり、作品が作家自身の手によって更新されていく様を窺い知ることが出来ました。

《コスモス》(2014-)

こちらの作品も同じく東日本大震災をきっかけに始動した「空白のプロジェクト」から。微生物燃料電池に興味を持った三原さんが辿り着いた一番やりたいことは、「苔玉に君が代を歌わせる」(「君が代」で長寿のメタファーとなっている苔から、人々に対して長生きしなよと歌ってもらう)👀
今は技術的にできないけれど、「レシピ」に書き残しておけばいつか達成されるかも、というお話が印象的でした。

《8'17''》(2020)

8分17秒とは、太陽の光が地球に到達するまでの時間。砂時計の中には8分17秒分の砂(と書きつつ、実は土)が閉じ込められているのだとか。太陽の光は終わらないので、砂時計も回り続けます。照明も太陽のイメージ。照らされてできた台座上には、太陽に関係するある現象が生じる瞬間が。

《無主物》(2020)

水をテーマにした作品。装置には急速冷却器が付いていて、空気中の水分を急速に冷やして水滴をつくり出しています。環境変化に敏感なので、季節によって水滴の出来る量も違っているほか、冬場には氷柱ができたりもするのだとか。目に見えないけれど空気中に水分が存在していることを、改めて可視化しています。

《㎥》シリーズ(《7㎥》、《14㎥》)

ガラスケース内は気流の作品。ケース内の容積に応じた作品タイトルとなっています。密閉空間にファン(扇風機)と軽量フィルムを入れることで循環気流を作り、流れを可視化する仕組みです。それぞれのケースの形で違った気流が生じるところがポイント。

「レシピ」

今回の展示では、各作品の「レシピ」を横一列に並べ、縦軸で各項目の作品ごとの違いを見比べられるようにすることで作品同士の相関や差異を探る試みがされているそうです。
「レシピ」の項目とは、(右から)①「空気の芸術」作品マップ中の位置付け ②作品スケッチ ③作品概要 ④作品で扱う空気の現象の性質 ⑤機能ダイアグラム ⑥ハードウェアの回路図 ⑦制作パーツのリスト ⑧つくり方の手順 ⑨作品に使われている実際のパーツ。
これを見れば大体少なくとも一週間あればできる(所要時間は作品によってまちまち👀)、と三原さんはおっしゃいます。できるかな、果たして……。

2階階段

《空気の研究》(2017)

2階階段脇から覗くことが出来るオープン・デポに設置された作品《空気の研究》。野外に設置したセンサーが風の強さや向きを感知。データ化し転送された屋外環境が6つのファンの風力で再現され、その気流が真ん中に置いたフィルムを浮遊させます。

香りのパフォーマンス

《粉を挽く》(2024)

Room2はお部屋全体で《粉を挽く》というインスタレーション作品になっています。
コロナ禍でマスク生活になった時、呼吸がしづらいので人気のない場所ではマスクを外して匂いを嗅いでみるようになった。すると、その時の時間帯や場所によって、「その場の匂い」がすることに気が付いたそうです。
同時に、おうち時間が増えてコーヒーを豆から挽くように。モーター仕掛けにしてみて放っておいたら、15分くらいで部屋に香りが漂い始め……香りは微粒子によって生じる現象と改めて認識したそうです。

Room2の扉から入って目の前には、パフォーマンス《L’aria del giorno(本日の空気)》のためのセットが。コロナが落ち着きはじめた2022年に実施されたプロジェクトで、イタリアの農村地帯へ1ヶ月滞在した三原さん。その機会に持って行ったモーター仕掛けの自動ミルは、滞在の最後に行った香りのパフォーマンスのセットの一部に。今回も展示されました。

装置の後ろには、「レシピ」の印刷に使われた「各作品の色」。その素となる粉も並んでいます。

それぞれの作品に使われた材料を粉にして、その作品の色が作られました。(「レシピのレシピ」は全ての粉を混ぜた色だそう。)

作品の装置の内、石臼の下に置かれているのは会期中に1階エントランスに生けられていた草花などなど。カラカラに乾燥した状態です。

これをミルの中に入れて……

2ヶ月間、展示室の中ではモノ入れず空気を挽いてくれていた装置たち。
ここで初めて「粉」が精製されはじめたことに、一同感動の瞬間でした。

本当に粉になるには何度も何度もミルにかける必要があるそうですが、この日は途中で止めて熱で温めてみることに。

熱することで上昇した空気が物質(粉)を運び、香りが広がる

しばらくするとお茶を煎じているような香ばしい香りが展示室内にふわぁっと広がり始めました。次に細かくした夏みかんの皮を置くと、また違った甘酸っぱいような香りが。
その後も会期中に集まった有機物の香りが焚かれるなか、作品を鑑賞した参加者たち。作品《粉を挽く》を構成する装置によって粒子の広がり=香りを感じた、「空気の芸術」の展覧会ならではの体験的アプローチとなりました。

緑の台に夏みかん、ピンクの台に葉が置かれています

カフェ八角塔のコラボメニュー「  ・ア・ラ・モード」

そして最後に、この作品とカフェ八角塔のコラボメニュー「  ・ア・ラ・モード」企画に携わったKeMCoの学芸員補さんも「達」として登場。

今回、三原さんの作品を受けてカフェ八角塔さんでは、透明な水ゼリーを中心に、雲のようなフワフワしたメレンゲを添えた(本来「プリン・ア・ラ・モード」の所「プリン」が)空白の「  ・ア・ラ・モード」を提供してくださっています。
さらに、このメニューでは味変として、《粉を挽く》の粉に対応する10種類の粉を用意してくださいました。そこから3種類選んで、かけて食べることができるという、非常に凝ったスイーツになっています。

KeMCo学芸員補・常深さん

八角塔さんでは、三原さんの「レシピ」や「三原文庫」も展示されていました✨

おわりに

最終日のこの日、三原さんから、そして三原さんと一緒に今日に至るまでをつくり上げてきた「達」からお話しいただくことで、映画のエンドロールのように、展覧会の裏側から輪郭が立ち上がってくるような感覚でした🎥

8月6日朝・晴れ☼ #み展 観察日記 ふりかえり編

KeMCo内では、学芸・広報スタッフとKeMiCoが、「説明的・解説的にせず、自分の感じたことを書く!」をコンセプトに、「コンポスト日記」ならぬ、「#み展 観察日記」を日々書き続けていました。

日記を書く中で作品の変化だけでなく、気候の変化や植物の変化、会場に聞こえてくる音など、美術館を取り巻く環境にも意識を傾ける時間が生まれていた気がします。
#み展  の展示が撤収され、再びシンと静まり返ったKeMCoエントランス。

ちょっと…いやかなり!寂しいですが、ケムコンポストはもうしばらくKeMCoで回り続けます🎡「レシピ」と「コンポスト」の今後に期待しつつ、これで一旦のお別れです👋 沢山のご来場、ありがとうございました!
(「レシピ」に挑まれた方はぜひ教えてくださいね👂)


今年度中には本展についてまとめた記録集を刊行予定!続報にご期待ください!

次回展のご案内:「Land-scape-お持ち帰りできる風景」

会期|2024年10月7日(月)~12月6日(金)
   11:00–18:00【土日祝休館】
特別開館|10 月19 日(土)、11 月23 日(土・祝)
臨時休館|10 月21 日(月)、11 月25 日(月)
入場|無料、事前予約不要
主催|慶應義塾ミュージアム・コモンズ
協力|慶應義塾大学アート・センター、慶應義塾大学三田メディアセンター

写本や稀覯本(きこうぼん)、版画や写真、絵葉書や旅の道具などの紹介を通じて、みなさんを「お持ち帰りできる風景」を巡る旅にご招待します。お楽しみに!

文責:KeMiCo Honoka