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展示の流儀【アーティストの声を届ける「Artist Voice」】ーアート・センター渡部葉子先生&新倉慎右先生(前編)

キュレーターをはじめ美術館関係者にインタビューしていくシリーズ、その名も「展示の流儀」。今回は、慶應義塾大学アート・センター「Artist Voice Ⅰ: 河口龍夫 無呼吸」のキュレーションを担当された渡部先生と新倉先生にインタビューしてきました!

今回はKeMCoM YUIとKAHOでアート・センターに突撃!沢山お話を伺えたので、贅沢な前編・後編の2記事でお届けします。

ー渡部先生、新倉先生、本日はよろしくお願いします。簡単に自己紹介をお願いします。

2人の先生

(左が渡部先生、右が新倉先生)

渡部先生「美術館での学芸員を務めたのち、2006年4月よりアート・センターで勤務しています。一昨年からは慶應義塾ミュージアム・コモンズKeMCo)の副機構長も務めています。主に展覧会の企画などを行っており、その他、担当する授業もあります。大学の時の専門は近代美術、学芸員時代は東京都美術館・東京都現代美術館に勤めていたため現在も現代美術を専門としています。」

↑渡部先生が担当されている授業「ミュージアムとコモンズ」に関する詳細は、こちらの記事が詳しいです!

新倉先生「慶應の美学美術史学科の博士課程在籍中に留学し、帰国後にアート・センターの学芸員補に。その後Bunkamura ザ・ミュージアムでしばらく勤務したのち、一昨年からアート・センターに勤めています。渡部先生と一緒に展覧会の仕事をしたり、本間先生(アート・センターとKeMCoを兼任されている先生です)のやっていたことを引き継いでいるんです。専門はミケランジェロですが、担当する展覧会などで扱う対象はそれとは全く関係ありません。なので、アート・センターで私はモダニズム建築も担当しています。」

ーいま気になったことが、1つあります!展覧会を開催する時は、専門が異なる人が担当することもあるのですか?

新倉先生「学芸員はそれぞれ専門がありますが、手がける展覧会は自分の専門でないことが多いため、毎回勉強しながら開催しています。アート・センターでは現在、私たち2人と桐島先生(アート・センター所属の学芸員)、学芸員補で展覧会をまわしています。」

渡部先生「自分の専門ドンピシャの展覧会をやれるのは、人生で2回あるかないか、ぐらい珍しいことなんですよ。」(びっくり!)

ーそうだったんですね〜!知らなかったです!ところで、渡部先生の今回の展示作品説明ビデオ(渡部先生が他大学で講義する際に制作したもの)を拝見しました。展示室はコンパクトと言っていましたが、作品数が多くて、見ごたえたっぷりだったのですが、レイアウトに対して、こだわりなどはあるのでしょうか?

展示室

渡部先生「アーティストさんがご存命の時は、ご本人と相談しながらレイアウトを決めているんですよ。今回は河口先生がレイアウトの模型を作って、大枠を考えてくださっていたので、あとは微調整をしたかたちですね。私たちは、"こういうふうに置きたい"と言われたのに対して、どういう展示台を置くとおさまるか...といったことを考えているのです。」

新倉先生「アーティストが亡くなられている場合は、こちらで考えないといけないんですよね。また、作品数に関しては、その展覧会によって大分変わります。特に今回は、作品が多かったですね。昨年行なわれた河口先生の展覧会も、貝を使った作品をはじめ、作品数が多かったです。同じ現代アートの展覧会で比較すると、2015年に行なった「同時代の眼V『ブリンキー・パレルモ』」は、5・6点しかなかったんですよ。」

ー今回の展示会では(河口先生の)ここ1年の作品が展示されている、ということですが、すべて河口先生が選んでいるのですか?

渡部先生「1年間で作ったものでいうと、展示作品のほかに300点くらいあるので、今回は作家本人の意向を反映しつつ、相談しながら出品作品を決めています。去年の展覧会を企画していた時、コロナで(昨年は)開催できるか不透明だったため、もし開催できなければ、翌年(2021年)に同じ作品で展覧会を開くということを決めたんです。結局、昨年も開催することができたので、今回は展示作品をすべて一新したものになりました。」

ーそうなのですね!凄くフレキシブルですね。

渡部先生「普通の美術館ですと、このようにカジュアルに決めることは難しいのです。今年もやったのに、なんで来年も?となってしまう。その反面、思いついたらすぐ実行できる、というのが大学ミュージアムのいいところですね。今回の展覧会は、未来を見るためにもこの一年間で制作された作品を選んで展示するということに決まったのです。コロナの間にできた作品には、それまでの作品とは違って状況によって作らされているようなところもあるそうです。ある程度、身をまかせて作品を作ってきた、ということですね。それを並べてみてみるというのが、今回の展覧会です。」

新倉先生「コロナ以前に制作された河口先生の作品に手法や発想が近いものは今回展示していないのです。それらは、状況に作らされているというより自分の中で作ったものであるので、今回は並べるのが違う...ということで展示を見送りました。」

ーそういう流れで展示作品を決めていったんですね!すごく興味深いです。

ー今回は、Artist Voiceシリーズの第一弾ということで、アーティストの声を感じられるというのがコンセプトだと伺いました。実際、(今回の展示をみて)コンセプトにぴったりだな、と感じたのですが、どちらが先に決まったのですか?

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渡部先生「河口先生の展覧会開催が先に決まりました。」

ーそれに合わせてシリーズを?

新倉先生「さすがにそれだけで決められることはないのですが、その後に続く展覧会を考えたときに行けるな!と思って、このテーマになりました。」

渡部先生「展示室が一室なので、その良さを活かすのにぴったりなテーマだと思っていましたが、アーティストの声を届ける = Artist Voiceになりました。」

ー今後の展示も、今回の展示のように、アーティストの声を感じられるものになるのでしょうか?

新倉先生「解釈は沢山あります。次回は、有元利夫さん(画家)のご遺族と相談してArtist Voice Ⅱをやる予定です。素描にフォーカスしたものになります。完成品を制作する前、1番最初に書くのが素描なので、"生"のイマジネーションが表れるのです。今後は作家との距離が近いという大きなコンセプトのもと、シリーズをやっていこうと考えています。」

ーコロナ禍で人やモノ、コトとの距離感を感じることが多くなったように思います。ただ、アート・センターの展覧会は、作家や美術品との距離が近いので、今まで以上に"間近"で見れることに意義を感じます。ぜひシリーズ全部見てみたいです!

ー昨年の展覧会のタイトルは「鰓(えら)呼吸する視線」で、今回の展示には「鰓呼吸したポスター」という作品があります。度々登場する「呼吸」ですが、そのなかで、今回の展示名は「無呼吸」になっています。なぜ、無呼吸が選ばれたのですか?

入り口


渡部先生「展覧会タイトルには色々な候補がありましたが、コロナによる閉塞感の中で、作品を作り続けることで作家がなんとか呼吸している様子を的確に表現する言葉なのではないかと思って付けました。無呼吸というのは呼吸がないのとは違って、無呼吸という呼吸があるのでは?と河口先生も言っているのですよ。」

ーないけどある、ということですね。少し難しいですね。。

渡部先生「言語化できるものは作品にする必要はないので、言語化が難しいものこそ作品で表現するのです。」

ーなるほどです。。展示のなかで出てきた言葉で一番難しかったのが「無呼吸」でしたが、深い理由があるのですね。お話を伺って、とても腑に落ちました。ありがとうございます!

(前編はここまで)__________________________________________________________________

なかなか知ることのできない展覧会の裏側について、詳しく聞けて、ほくほくのKeMCoMです!続きは後編をお楽しみに!!!

KeMCoM 
YUI & KAHO