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【とにかく歩く】文系大学院生の京都での過ごし方

夏の終わり。大学生の皆さんは夏休みの終わりがだんだん見えてきた頃ですね!🍉夏休みの思い出はたくさんできたでしょうか??
次回展に備えつつ休館中のKeMCoですが、目下プカプカ島旋風を巻き起こしているKeMiCo Otaを筆頭に、学芸員の先生方は秋田へ、アイスランドへ……とKeMCoから飛び出していろいろなところへ足を運んでいます!

今回は国内編!筆者=KeMiCo Honokaは現在大学院で日本美術史を専攻しており、特に近代京都の美人画家について学んでいるため、度々京都(奈良にも)に出向きます。回数を重ね、定番化してきた弾丸旅行の過ごし方を特に祇園祭り期間で華やかだった7月12日(金)の模様を例にとりご紹介してみたいと思います✨
時間もお金もないけど色々したい!行きたい!というどこかのどなたかに参考になる、かも……?


明日、京都に行こう

旅の始まりは移動手段の決定と予約から!
移動手段は専ら夜行バスです。片道およそ3000~5000円で、早朝に到着するので早起きの努力なしに「早起きは三文の徳」を実現可能となれば、あとのことは気になりません。

「この展覧会もあの展覧会も終わってしまう!まずい!明日なら丸一日空いている!今だ!!」とスケジュール表に光が差したその瞬間に、バスを予約してしまいましょう。
私はよく、弾丸が過酷なことをわかっていて躊躇う気持ちを抑えるため、もはや無料キャンセルの効かなくなった前日の朝に予約を入れます。(もちろん前もって予約した方が節約になります。)行きの予約さえあれば、もう旅は決定です。そして旅は目的地に着いてしまえばどうにかなるものです。(と、自分に言い聞かせる。)

1人で行くなら旅程を組みきる必要はありませんが、関西方面で行われている展覧会などは京都に限らず大阪・奈良・滋賀を含め一通り確認します。そして、ある程度選べたら、会期と開館時間、場所を照らし合わせ、可能な組み合わせを探っていきます。ここを巻いたらここに行ける、などとちょっとやりすぎくらいの予定を組んでみて、現地でトライしながら削っていく形にすると詰込み型の旅程になりやすいので詰め込みたい人にはオススメ。美味しいご飯や美しい景色は後からついてくるもの、歩いているうちに出会えたらラッキーなものと捉え、調べません。

6:30 京都駅着

夜行バスに乗ると5:30-6:30くらいに京都駅に着きます。
朝の京都、いいですよね。いいのですが、7時前に着くとできることが非常に限られてきます。こればかりはいくら観光名所が数多ある京都と言えどどうにもなりません。
早速腹ごしらえをば、と思っても、優雅なカフェはまだ空いていないので、深呼吸をして土地の空気でも吸っておきましょう。旅情が出ます。

ここではご飯や休憩への願望は一旦置き、神社仏閣へと散策にでることを推奨します。

7:00 祇園祭を感じる

ということで、今回は京都駅についたその足でバスに乗り祇園へ。
7月の京都と言えば祇園祭!日本三大祭りの一つのこのお祭りは、八坂神社の祭礼です。

バスを降りてのぼりを発見!嬉しくてパチリ。早速感じました、祇園祭。

八坂神社境内では豪華絢爛な神輿を見ることができました。

祇園祭を感じたい!と言いつつ、実はここに来た本来の目的は絵馬堂を見ること。
古来、神社に馬そのもの🐎を奉納していた習慣が変容し、中世末~近世頃には絵に描いた馬の扁額を奉納するように。扁額の絵の内容も馬に限らず多種多様になっていき、有名絵師が手掛けることも多々あったのだとか(八坂神社なら西川祐信、池大雅など)。したがって、絵馬堂は一種のパブリックな鑑賞空間として機能していたようです。

八坂神社絵馬堂(重要文化財)

美人画で知られる上村松園(1875-1949)は、修業時代にここをよく訪れた……ということで、今はほとんど大絵馬は掛かっていませんが、訪ねてみました。

八坂さんの絵馬堂にもよく行きました。北野の楊貴妃の図などは今もはっきり覚えています。当時はまだ絵具の色も十分残っていましたが、今はもう殆どあせ果てています。

上村松園「冷かされた桃割娘」『京都日出新聞』昭和11年(1936)2月11日付

祇園祭においては、京の町の家々で家蔵の屏風を披露する屏風祭で毎年縮図を取る姿が知られていた松園さん。身長150cmに満たない小柄な方だったそうですが、熱心にここを見上げて学んだ姿が偲ばれます。

8:00 モーニング

朝ごはんの場所だけは事前に探しておくと良いです。10時以降、街中が色々開いてくると自分もできる限り頑張らざるを得ないので、食事時間はほぼ取れない覚悟。時間のある朝のうちに、モーニングだけはちょっとリッチに食べておくと、心身の健康が保たれます☀️自分のお腹の機嫌をまとめて取っておくスタイル。

美味しいコーヒーは幸せな目覚ましになってくれますね。

8:30 大谷祖廟へ

祇園方面にはもう一つの用事がありました。
それは、真宗大谷派・東本願寺の飛地境内である大谷祖廟を訪ねること。

京都市内にこんなに長い参道があるとは……!

東本願寺は、先ほど名前を挙げた松園さんの二番目の師匠である幸野楳嶺(1844-1895)が御影堂の障壁画を手掛けたり、三番目の師匠・竹内栖鳳(1864-1942)が御影堂門天井画制作プロジェクト(残念ながら完成せず)に携わるなど、近代京都の日本画の展開に密に関わったお寺です。このプロジェクトを経て、栖鳳は《絵になる最初》(1913年)や《日稼》(1917年)の制作に至ったことが知られます。
今回は、そんな東本願寺のもう一つの境内ということで、大谷祖廟への墓参を目指して祇園~円山町の方まで来ました。

(途中土砂降りの雨に遭い、これがきっかけでスマホのカメラが水没しました……悲しい😭)

10:00 何必館・京都現代美術館

……既にお気づきでしょうか。京都の何が怖いって、由緒ある場所があまりにひしめき合っているので、「ここもついでに行っておこう」が起こりすぎるのです。

街の起床時間たる10時に合わせて、再び祇園の方へ戻ってきました。目的地は、何必館。館長の梶川芳友さんが蒐集されたコレクションの中核を担うのが、村上華岳(1888-1939)・山口薫(1907-1968)・北大路魯山人(1883-1959)の三人の作品。

今回の展示は三人の作品にフォーカスされたものでした。何必館の展示では日本画もガラスケースに隔てられていなかったり、陶磁器作品は水を張って青もみじを散らしてあったりと、作品の生き生きした姿が拝めるのが他と違うところ。特に有名な麦僊の《太子樹下禅那》(1938年)のためのお茶室空間はなんとも贅沢でした。

と、ここまで予定通り順調に進んでいます📝

11:30 下鴨神社

さて…午前中はまだ長いぞと調子に乗りながら、バスで移動🚌本来の目的地は相国寺承天閣美術館でしたが、調子に乗っているのでバスを手前で居りて下鴨神社へ寄ることにしました⛩️🦆
すると、調子に乗った私に朗報。特別拝観をやっているとのこと。調子に乗っているのでそそくさと拝観券を購入。

特別拝観では、大炊殿・神宮寺旧跡・鴨社資料館秀穂舎を見学可能だったので、ちゃっかりスタッフの方の解説も伺いつつ、見学してきました👂

いつか教科書で見た鴨長明の方丈の庵も見ることが出来ました。とてもコンパクトでした。ここから「ゆく川のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず。」(『方丈記』)が書かれたのね~なんて黄昏ていたら、13時を過ぎてしまいました……。もう午前中じゃないじゃん……。調子に乗りすぎたことにより、お昼ご飯を食べる時間を逸しました。でも、お昼ご飯より諦めきれないのは相国寺承天閣美術館。できる限りの早歩きで移動します🏃‍♀️

13:20 相国寺承天閣美術館

Google先生は徒歩18分と言っていたところ、15分で到着したので自分を褒めました。
臨済宗のお寺で、特に伊藤若冲との関わりが知られる相国寺。今回は、「頂相ー祖師たちの絵姿」展を開催していました。こんな風に教えが脈々と受け継がれていく(法脈)のね~それが絵(頂相)を見てわかるのね~ふむふむ、と拝見。祖師さんたちのお顔は言い得ぬパワーがありますが、それが自分の敬愛するお師匠のものともなれば……いやあ……頂相にはたかが絵ならぬ力を感じていたはず、と思ってしまいます。

14:20 いざ、奈良へ🦌松伯美術館

急いでいた理由。それは、奈良にも用があったからでした。目的は奈良・学園前駅の松伯美術館特別展「文化勲章 三代の系譜 上村松園・松篁・ 淳之展」。実は5月半ばにも行ったのですが、展示替えを受けてどうしても再訪したかったのです。

相国寺承天閣美術館から松伯美術館までは所要時間約1時間半。最終入館は、16時。この時点で、到着予想は16:08……え???特急券を買えば15:59着だけど10分のために課金したくない。ということで、駅を降りてから徒歩24分の道を、走ることにしました🏃‍♀️

幸い駅からの道は下り坂が多く、間に合いました(大拍手)。
松伯美術館は展覧会名にもある通り、上村松園・松篁(1902-2001)・ 淳之(1933-)の三代の画家の作品を収蔵しています。特に拝見したかったのは松園の縮図帖やスケッチ、下絵の類。今回は開館30周年記念とあって他館からの借用作品も多く、一時間で見切ってしまうにはもったいない豪華さにうっとりしつつ、目的を遂げました!

でも、もうちょっと用事があるので急いで京都に戻ります🚃

19:00 京都国立近代美術館

さあ、幸せな朝ごはんだけではさすがにエネルギー不足になるかと思いきや、次の閉館時間が迫っているのでまだ休めません!🙅‍♀️

平安神宮のある京都・岡崎の京都国立近代美術館へ。今回はこちらの2024年度第2回コレクション展を目掛けてやってきました。

京都国立近代美術館(ちなみに設計は槇文彦。
慶應の日吉メディア、三田メディア、大学院校舎の設計をされた方です。)

ちなみにこの美術館の向かいには京都市京セラ美術館(京都市美術館)があります。

平安神宮の鳥居。その後ろの帝冠様式の建物が、京都市京セラ美術館。ああ、ここに住みたい。

このエリアはワクワク文化行政ゾーンと言いますか、内国勧業博覧会や官展(文展、帝展)などは大体、東京では上野、京都では岡崎で開催されていたようです。この2館は平日でも開館時間が少し長い(18時まで)ので、毎回暗くなる頃にどちらかに伺っています。この日は金曜日だったので20時までの夜間開館。じっくり拝見できました。

今年は福田平八郎(1892-1974)没後50年に合わせて各地で展覧会が開催されていますが、こちらでもテーマ展示されていました。Xでも少し話題になっていましたが、福田平八郎のまとまった作品群が旧ソ連から寄贈されたものというのがキャプションを見るたびに気になって仕方がない……。

21:00 祇園祭を感じる②

20時に京近美を後に。
この日は祇園祭の山鉾巡業がちらほら見られるということで、四条通を目指しました。でもでも、そこはやはり京都の町。ただ移動して四条通についてしまうのはもったいないので、何らかの出会いを信じて歩いてみることに🏃‍♀️🏃

歩くこと約1時間ほどで、ついに四条通に到着🎉
以下の地図が今回のルート。碁盤の目になっていてわかりやすいですね!画面下の横方向に青の線が引かれた通りが四条通です。

あまりに暗くて「何らかの出会い」はありませんでしたが、既に亡くなった画家の旧居跡に出来たコインパーキングを見つけるなどして楽しみました。うふふ。ちょっと怪しいので写真は載せません。

そして人生初、山鉾を見ました!
こんな街中で、車も通る道に山鉾が共存している不思議さ。建物の2階から浴衣姿の皆さんが山鉾に乗り込んでいく光景は、やっぱり実際に見てみないとわからないなあと思いました。百聞は一見にしかず!

21:50 地元ごはんが食べたい

ここまで来たら、さすがにお腹も空いてきたことを自覚せざるを得ず。しかし、ここまで我慢していた空腹をコンビニ飯で済ますには惜しく、最後のひと踏ん張り、と祇園まで戻って、お好み焼きを食べました。
大正期頃より、子供たちが一銭で食べられる駄菓子屋のメニューだったのだとか。

美味しかった……

22:00 駅までダッシュ

どうしても食事を諦められなかったがために、50分後に迫りくる帰りの夜行バスの出発時間……。現在地から出発地点までは、徒歩40分。公共交通機関なら乗り継ぎ一回で30分と出ました……。
バスは間違えそうだし(何度も盛大に間違えたことあり)、電車もタイミングによりけり。となると……最後に信じられるのはやっぱり自分の足!!!(この日2回目)。地上を歩いている(走っている)限りは、自分の体力次第で如何様にもできるはず!ということで、やっぱり歩く(走る)ことにしました!!!!!

バス乗り場までまっすぐ40分の道のりです

これを逃したら帰れないという恐怖心から、今なら競歩の大会に出られるのではないかという勢いで、走るか走らないかの爆歩きをかましていきます。京都の風情を楽しむ観光客の皆さんのお目汚しを申し訳なく思いつつもごぼう抜き!無事、バスの出発10分前に集合場所に到着しました😮‍💨😮‍💨

こういう成功体験を得て、また次も私は徒歩で乗り切るという強行突破作戦に出てしまうのだと思います。

合計歩数は45,209歩、歩行距離は29.2㎞とスマホアプリが教えてくれました。

これにて、京都滞在は無事終了。
展覧会図録がお土産です。

おわりに

ひたすら体力と気持ちで勝負する文系大学院生の京都での過ごし方、参考になった方はいらっしゃるのでしょうか。甚だ疑問が残りますが、こんなこともあるよねと共感してくださる方がいらしたら本望です。

大学院に進学して2年、こういう詰め込み型の弾丸遠征を度々試みています。いくら詰め込みすぎてまともにご飯や景色を楽しめる旅程でないとしても、これほど歴史の詰まった魅力的ある街に一日居られる喜びに勝るものはありません。どんなに疲れるとしても、研究対象としている画家たちの息吹を感じ、作品を沢山目にすることでしか得られない活力があります。ふしぎ発見!が引き出すアドレナリンの魔力ですね。

いつか優雅に京都を楽しめる日が来ることを願いつつ、来月もまたこんなスケジュールで京都に行ってきます🏃‍♀️💨

文責:KeMiCo Honoka