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展覧会「Artist Voice II: 有元利夫 うたのうまれるところ」の魅力に迫る:前編

Keio Museum Commons (慶應義塾ミュージアム・コモンズ)

現在、慶應義塾大学アート・センターでは、画家 有元利夫の素描をとりあげた展覧会が開催中です(〜4月22日迄)。そこで今回は、慶應義塾ミュージアム・コモンズの学生スタッフKeMCoM(ケムコム)のKAHO・RUKAが、本展覧会のキュレーションを担当した新倉慎右先生に突撃インタビュー!フレッシュな視点で展覧会の魅力に迫ります。

✳︎貴重なお話をたっぷりしていただいたので、前編・後編の2回に分けてお届けします✳︎

以前、新倉先生にご登場いただいた記事はこちら↓

ー 新倉先生、お久しぶりです!本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、展示室の壁面に大きな展示ケースが誕生したような…!?これまでは、普通の壁でしたよね?

展示ケースの前で解説する新倉先生

新倉先生「よろしくお願いします。そうなんです、実は今回の展覧会のために壁一面を丸ごと展示ケースにしてしまいました。奥のグレーの部分が鉄板になっていて、作品を全てマグネットで壁に貼り付けています。」

ー そうなのですね!会場に入ってすぐ、正面にあるのでとても迫力があり、今回の展覧会へのこだわりが感じられますね。…それでは、まずは今回の展覧会の概要について伺います。今回は有元利夫さんの素描が集められて展示されていますよね。作家の "生の声" ということで(素描は)「完成した作品よりも純粋な着想の表現」とアート・センターの公式ホームページにも書かれていましたが、今回、Artist Voiceシリーズのコンセプトがあって有元さんの素描を集めることになったのか、それとも素描を集めることになったことを契機に、そのような解釈がなされたのでしょうか?

新倉先生「前回のシリーズ第1弾(Artist Voice I: 河口龍夫 無呼吸)の時からコンセプト自体はあったので、今回は有元作品の中からコンセプトに合う作品を選んだ…というわけではありません。ここ(アート・スペース)が研究所の展示室であり、大きい展示会とは違った展示ができるという利点を活かすために、有元さん(奥様と息子さん)とご相談を重ねた結果、このような素描が残っているという話になり、それがArtist Voiceのコンセプトにぴったりだったのです。コンセプトに合わせるために素描を探していたわけではないのですが、ちょうどコンセプトにぴったりかみ合う展示をつくることができました。」

ー そうだったのですね!それにしても、展示室がいっぱいになるくらい、想像していた以上に多くの数の作品が展示されていますね。

展示ケース内の作品(一部)

新倉先生「今回は有元さんの息子さんと、現在の有元作品の所蔵者である奥様の全面協力のもと、現存しているほぼ全ての素描類を展示しています。本来、作家は完成作を見せるので、素描といったものは基本的には外に出てくるものではありません。有元さんも "ドローイング" という(一種の)作品としての素描の概念をそれはそれで持っていたようですが、造形の練習だったり、普通の写生のように、普段は表に出てくることのないものが沢山ありました。…これらは、有元さんがもう既にお亡くなりになっているから出せるというところもあります。現在進行形で制作をしている人だと、制作の背景にある素描類を見せるのを嫌がる人もいますが、こうした素描類からは、その作家の制作背景を垣間見ることができます。特に今回はご遺族からのご要望で(もうすでに確立されている有元のスタイルがあるからこそ)素描を通して背景を知り、有元作品全体を感じてほしいとのことでした。展示されている殆どの作品が未公開のものなので、そういった意味でも、本展覧会は大変貴重な展示となっています。」

ー なるほど。作品が展示されている壁面の場所やまとめられ方には、どういった意味合いがあるのでしょうか?

新倉先生「元々は、スケッチブックに描かれた素描類が殆どだったようですが、有元さんはそれらを自ら破って単体にして保管していたそうです。メインの展示ケースに展示されているのがそうした素描類です。それ以外の壁面のアクリルフレーム、あるいは壁際の展示ケースに収められた素描もちぎり取られたものですが、これらはそれぞれがファイルにまとめられていました。こうしてファイリングされていたものを見ると、構図が多いですね。人体造形などもありますが、特に構図には気を使っていたことがわかります。また、展覧会に出品されている素描は、特に人体を中心に、大まかに人体写生・(有元独自の)人物像・構図の三種類に分けることができます。有元さんは人物像を描くことが多かったので、練習として人体の基礎を知るために人体写生をやって自分の手でなぞる…という行いをしていたようです。こうしたデッサンを基礎に、彼独自の人物像が生まれたのだということがここからわかります。色々な試行錯誤を経て、観賞者が目にする "完成作" が出来上がってくるわけです。

作品について解説する新倉先生

また、素描の役割の一つには、思いついた着想を形にすることが挙げられます。展示作品を見ると、有元さんは人体の姿などを簡単に描いているような印象を受けますが、そういった "思いつき" に端を発した素描でも、陰影の付け方は彼がデッサンから培ったものだったりするので、素描を見ないと分からないことがたくさんあったりします。まさに、素描を通して作家の全体像が見えてくるわけです。」

ー 奥深いですね。。実は私たち、今回初めて生の有元作品を見るのですが、(インターネットで調べて見ることができた)完成された作品も、これら素描も、どの作品もデザインっぽい印象を受けました。

新倉先生「すごく良い視点ですね。実際、有元さんは東京藝術大学のデザイン科を出ていて、卒業後はデザインの仕事をしていました。元々は働きながら、時間を作って絵を描き続けていたのですが、最終的に画家一本に転向されたのです。そういった経験からか、作風には "デザイン" の要素が感じられますね。」

<後編に続く>

前編はここまで…!後編では、さらに深い「Artist Voice II: 有元利夫 うたのうまれるところ」の魅力についてお伝えします!是非、楽しみにお待ちください🥺


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慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)は、2021年4月にオープンした慶應義塾の大学美術館です。このnoteでは、KeMCoの所員やスタッフがミュージアムやアートに関わる話題を幅広く展開します。