部屋に飾って、天才にあやかろう!?第8回「オブジェクト・リーディング•リーディング: 精読八景」
・「オブジェクト・リーディング・リーディング」最終回!
みなさま、ついに「オブジェクト・リーディング・リーディング」シリーズの更新も最終回になりました…
オープニング2週間前から出展作品をご紹介し、既にオープンから2週間が経とうとしています…!早いですね…!
展示期間自体はあと2週間ほどありますので、まだご予約されていない方もご心配なく…!
会期は9月17日まで!
涼しい展示室で、ゆっくりとご観覧いただけると思います。
そして…
最終回の今回、ご紹介するのは慶應義塾附属研究所斯道文庫の「柿本人麿像」です!
・斯道文庫とは…?
斯道文庫(しどうぶんこ)とは、慶應義塾附属の研究所です。
見慣れない言葉かもしれませんが、「斯道」とは『論語』『孟子』等に由来する仁義の道を意味する語で、日本及び東洋の古典籍に関する資料の蒐集保管並びにその調査研究を行っています。
慶應義塾にはさまざまな研究所があるのですね!
・柿本人麿って、何がすごいの?
柿本人麿といえば、一度は名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
和歌の世界では言わずと知れた伝説的な存在でありながら、その生涯は多くの謎が残っているミステリアスな人物です💭
個人的には、小学校で百人一首を覚えた時に、柿本人麿の和歌を一番初めに暗記した記憶があります…💭
一般に百人一首とは「小倉百人一首」を指しますが、柿本人麿は「小倉百人一首」の歌番号三番が割り振られています。
この歌番号は基本的に時代順になっており、柿本人麿は天智天皇、持統天皇に次いで3番目に古い時代の人物であったといえます。
天智天皇や持統天皇は無論、身分の高い人物ですが、柿本人麿は比較的下級の貴族であったようです。
それでも、その優れた才能から和歌を学ぶ人々の間では「歌の聖(うたのひじり)」として崇められたのです✨
・ポスターを飾って目指せ上達?
後世では「人麿影供(ひとまろえいぐ)」と呼ばれる人麿を描いた画像を掲げての歌会も行われたそうです。
和歌を思い通りに生み出せずに悩んでいた栗田讃岐守兼房が、夢に出てきた柿本人麿を図像にして拝んだところ、和歌の腕が上がったという逸話から生まれた習慣なのだそうです。
現代でも、目標にするサッカー選手や歌手のポスターなどを部屋に貼る人がいますよね🖼
写真がなかった時代、尊敬する人や目標にしている人の姿を絵に残して、技術の上達を願う気持ちは現代の私たちにも共感できる部分が多いのではないでしょうか。
・同じ人物、違う雰囲気?
さまざまな時代において描かれた人麿像は、その図像からいくつかのスタイルに分けられるといいます。
例えば、先ほどご紹介した、栗田讃岐守兼房の夢に出てきた柿本人麿を描いた図像は「兼房夢想系」という名前で分類され、最も多く残されています。
兼房の夢の中の人麿は、右手に筆を、左手に紙を持ち、変わった形の烏帽子をかぶっていたそうです。
本展に出品されている柿本人麿像は、紙と筆を持って思案している様子が描かれています🎨
この作品の中の柿本人麿は、左を向いているという点で、珍しい図像なのだそうです。
したがって「兼房夢想系」とは別の系統であるといえます。
Keio Object Hubで「柿本人麿」と検索すると、人麿像を一同に比較して閲覧することができます!👀
・キーワードは図像学?
こうした分類は「図像学」に基づいており、その絵の系譜や、絵に込められた意味を知る重要な手がかりになるのです🔍
日本美術のみならず、例えば同じ聖母マリアの受胎告知の場面の絵を見ても、時代や様式によって異なる部分もあれば、共通している部分もあります。
1333年イタリアで描かれた、シモーネ・マルティーニ『聖女マルガリータと聖アンサヌスのいる受胎告知』 と…
(参照 : https://www.wga.hu/index1.html )
1850年にイギリスで描かれた、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの『受胎告知』。
(参照 : https://www.wga.hu/index1.html )
どちらも同じ場面で、天使や白い百合が描かれています。
しかしマリアの衣服を初め、背景から人物の表情まで雰囲気は全く異なりますよね!
同じ人物や同じ場面を描いた作品でも、共通点や差異点を比較すると、さまざまな情報を得ることができるのです。
本展覧会の「柿本人麿像」のような、優れた歌人の肖像は「歌仙絵」と呼ばれますが、柿本人麿はこうした「歌仙絵」の原点ともいえる人物です。
特に、人麿の場合は歌仙として崇められたが故に、多くの作品が生み出されたことから、系統立てて図像を比較することができるのですね!💡
「誰を描いているのか」という視点のほかに、「どのように描かれているのか」という視点で、オブジェクトと向き合ってみるのはいかがでしょうか。
・最後に…
今まで4週にわたって作品を見つつ、「オブジェクト・リーディング」というコンセプトをご紹介してまいりました。
展示自体はまだまだ続きますので、まだ「オブジェクト・リーディング」未トライの方がいらっしゃいましたら、ぜひ、早めのご予約をお勧めいたします!
そして今回で、「オブジェクト・リーディング・リーディング: 精読八景」note シリーズは最終回となります。
短い間でしたが、お付き合いくださりありがとうございました!🎉
(文責 : 学芸スタッフKeMiCo KOYURI)
「オブジェクト・リーディング : 精読八景」展
会期は8月16日から9月17日
開館時間 11:00から18:00(土・日・祝日休館)です。
ご予約はこちらから
※入場には事前予約が必要です。