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【守ること、伝えること】文化財の修復を取材!「弘法大師像」#3

この記事は「弘法大師像」(センチュリー赤尾コレクション)修復note第3回です。2023年3月〜5月の状況をご報告します。

第1回、第2回から進んだ「弘法大師像」の修復の様子をお届けします!

過去の記事はこちらから↓(詳しい作品紹介もしています)

まず、「弘法大師像」の3月時点の状態をご覧ください。

2023年3月6日、取材時の「弘法大師像」です。

作業台の上に、広げられているのが修復途中の「弘法大師像」です。
絵画が描かれた表面が下となり、作品の裏側から修復作業がおこなわれています。

絵に最初に裏打ちする紙を肌裏紙と言います。上記の写真は、肌裏紙の除去作業中で、薄茶色に見える部分が絵絹が見えている(裏打紙の取れた)箇所、黒色の箇所が、肌裏紙の残っている箇所です。

肌裏紙の残る箇所でも、濃い黒色と薄い色の部分があり、黒色が薄くなっていることは、裏打紙が残すところわずかであること示しています。

肌裏紙の除去方法を紹介!

紙に水分を与えるとほつれる性質を利用し、肌裏紙を小さな区画ずつ濡らしながら、絹から剥がしていきます。裏彩色(絵絹の裏面から絵の具を施すこと)が取れてしまわないよう、慎重さが要求される作業です。一回の作業ですべての肌裏紙が除去できるわけではないので、二層三層とわけて同じ箇所を数回にわたり作業することがあります。また、水が作品の表面まで染み込んでしまうと、彩色に影響を与えてしまうので、乾くのを待つ必要があります。

写真にうつる小さな黒い塊が、除去された肌裏紙です。

専門家の手捌きを動画でもご覧いただきましょう。

うーん、これをこんな大画面でやるの!?
という地道かつ繊細な作業・・・ですね。
コツは「少しづつ場所を変える」「焦らない」とのことでした💡

肌裏紙を除去することで、江戸時代にあてられた補絹(修復時に欠損を補うためにあてられた絹)の様子がはっきりと見えてきました。

薄い茶色の箇所が絵画が制作された当時の絹、当時の絹が欠損した箇所に、嵌め込まれている濃い茶色の部分が、過去の修復時の補絹です。

3月から、この作業を続けること約3ヶ月・・・
肌裏紙と旧補修絹が取り除かれた、現在の弘法大師像はこちらです。
すっかり黒い肌裏紙がなくなっていますね!
このような裏面が見られるのも貴重な瞬間です。

5月30日時点の弘法大師像です。肌裏紙が除去されて、絵の裏側から見ている状態になります。

裏彩色裏箔(裏面から金箔を貼ること)など裏面からしか分からないことはたくさんあります。再び肌裏紙を打って裏面が隠れてしまう前のこの機会は、解体修理を実施した時(数百年に一度の機会)しか得られません。
高精細のスキャナーで撮影を行うほか、できる限りの科学的な情報を集めます!

いよいよ表具裂を準備します


仏画の表装裂については、格式などを考慮しつつ、所蔵する美術館や寺院など展示空間に合わせて、裂の色や模様、出来上がり時の寸法を決定します。作品を引き立て、鑑賞に相応しい色や模様であることも大切です。

現在は、バーチャル画像で表具を検討することもなされています。

事前に仕上がりがイメージできて便利ですね

今回は助言をいただいている先生からの、「弘法大師の優しい顔立ちに相応しい柔らかく温かな色調の表装が良いのではないか」というコメントを参考にし、当初の表具裂が褪せた朱色だったので、赤茶系の表装裂を選びました。

茜(赤色)、どんぐり(茶色)、丁子(黄色)などの天然染料を使って染めていただく方針になりました。丁子は防虫効果もあり古くから染料に使われています。昔ながらの素材には、選ばれてきた意味があるんですね!
どんな仕上がりになるか楽しみです。

表具裂のサンプルです

今後の作業は、上記の表装裂を染める作業のほか、肌裏紙の準備があります。新しく補う肌裏紙は、紙色のままでは、絵絹と重なった際に、鑑賞時に美しく見えないので、やや暗い色(焦茶色など)に染める必要があります。その色味も鑑賞に大きく影響する大事な選択です。

次回のnoteでは、肌裏紙の準備や、絹が抜けた部分に、人工的に劣化させた絹を補う作業(補絹)を紹介する予定です!今後のnote にもご期待ください!

執筆:松谷芙美(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師)
宮﨑黎(慶應義塾ミュージアム・コモンズ学芸員補)

協力:株式会社 修護


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