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【検証】本当にお持ち帰れてる?Land-scape展出品作品と実景を見比べてみた

まもなく会期終了!12月6日までKeMCoにて開催中の展覧会、「Land-scape-お持ち帰りできる風景」展🖼️
風景を描く大きな要因となったのは、土地を記録しようという願いであり、また、旅に出てその土地を訪ねた記憶を、風景を共有したいという願いでした。そんな意味を込めてつけられたのが、「お持ち帰りできる風景」という展覧会副題です🧳

展覧会を見ていると、

どこから「お持ち帰り」したんだろう?
実景にどれほど似ているんだろう?(本当に「お持ち帰り」できているのか…?)

という疑問が湧いてきませんか??🧐
今回は手始めに、展示室から作品を2作品ほどピックアップして、筆者が個人的に見たことのある景色や、Googleマップという偉大なる助っ人の手を借りながら、「お持ち帰り」の実態を検証してみたいと思います🗺️


コンスタンティノープル🇹🇷

作品番号2-4

まずは展覧会ビジュアルを飾るジョージ・サンズ『1610年からの旅の記録』第3版(ロンドン. 1627年. pp. 309.)より、コンスタンティノープルの風景を眺めてみましょう。

こちらについては以前にもnote記事で触れていますので合わせてごらんくださいね☟

トルコ最大の経済都市・イスタンブールはオスマン帝国時代の首都(コンスタンティノープル)。ボスポラス海峡を挟んでヨーロッパ側とアジア側にまたがったところに位置しています🌍

描かれているのは、ガラタからのサライブルヌ(セラリオ)の岬の景観だそう。つまり、海峡を挟んでヨーロッパ側の話です。
Googleマップ上、右手に「Sarayburnu」とあるのがご覧いただけるでしょうか。つまり、この地図だと左手上、ガラタ塔があるガラタという地区から海(金角湾)を挟んで画面ななめ右下⇓方向に眺めたのがジョージ・サンズの景観図、ということになるでしょう。

我々の視点=ガラタ、海(金角湾)を挟んで反対側の陸地がSarayburnu(サライブルヌ)。画面左手の陸地は、アジア側ということになるでしょうか。

作品番号2-4

現在のイスタンブールでも、ガラタ塔、そしてガラタ橋は最高のロケーションスポットとして人気を集めています📸

奥に見えるのがガラタ塔。
手前のレストランにはよく眠る大型犬がいました🐕トルコの犬猫は本当によく寝て健やかに育っている感じがして微笑ましかったです。
トルコ料理、ナスやらお肉やら何を食べても美味しかったです。

筆者が昨年イスタンブールを訪ねた際、ガラタ塔からサライブルヌ方向を眺めて撮った写真がこちら🌊

左手奥のアジア側が緑地として描かれていたのに対し、うっすらと高層ビルの影が見えますし、岬の方もずらりと建物が立ち並び、船もすっかり近代的ではありますが、面影を残していますね✨
右手のモスクはジョージ・サンズの図版の右手のモスクと同一のもので、これはアヤソフィア(ハギア・ソフィア大聖堂)ではないかと思います。この建物は、532-537年に東ローマ帝国(ビザンティン帝国)皇帝・ユスティニアヌス1世の命で建設されました🕌

アヤソフィア

手前の横に長い建物は、トプカプ宮殿でしょう。今は様々な建物に埋もれて見えづらいですが、「正義の塔」の三角屋根△が見えているのが目印です👀

この「正義の塔」の下で御前会議をしたのだとか。
スルタンが国民に正義を誓う場所ということで、「正義の塔」という呼び名なのだそうです。

ちなみに、今はこのアヤソフィアに向かい合う形でスルタンアフメト・モスク、通称ブルー・モスクがありますが、これはオスマン帝国第14代スルタン・アフメト1世が1609年から1616年に建設したモスクです。ジョージ・サンズが『1610年からの旅の記録』は1610年から2年ほどの間の旅路を書いたものだそうなので、彼は旅した当時にはまだその全貌は見えていなかったのではないかと推測されます。

ブルー・モスク

なお、先ほどの画角をすすすと右手にスライドすると、今は有名スポットとなっているガラタ橋があるのですが、初代ガラタ橋が開通したのは1845年のことだそうなので、描かれた当時はなかったはずです。

真ん中に見えるのがガラタ橋。驚くほど釣り人がたくさん並んでいます(そして釣れている)。
あとこの近辺にサバサンドのお店がたくさんあります。美味しかったです。

ということで、ジョージ・サンズ『1610年からの旅の記録』第3版(ロンドン. 1627年. pp. 309.)より、コンスタンティノープルの風景には、現在の実景に通ずる港町の営みと地形が、よく捉えられていることがわかりました🙆🏻‍♀️

ロンドン🇬🇧

作品番号2-6

続いて、「路地一本逃さない緻密なロンドン大地図」とキャプションのついている作品=作品番号2-6、ジョン・ロック『ロンドン、ウェストミンスター、サザーク市街図』(ロンドン. 1746年. エングレーヴィング. 570×787mm(見開き))をグーグルマップと重ねてみてみたいと思います。

このロンドンと周辺地域の地図は測量技師で地図制作者ジョン・ロック(c.1704-62)の代表作で、ロック自身が測量をして紋章官のジョン・パインが彫版を担当するかたちで、10年近くの期間をかけて1746年に刊行された。縮尺は約2436分の1という大型地図で、500×685mmの地図24枚で構成され、これらを縦 3 列、横8列で並べると路地一本に至るまで正確に描いたロンドンとその近郊地域の詳細な地図になり、18世紀中期のロンドンの様子が手に取るようにわかる。

Ask KeMCoより(参照:2024/11/13)

さて、地図に目を移すと、解説通り、一つ一つの通りの名前まで緻密に書き込まれています。
縦に一本入った「RIVER」はロンドンの川と言えば!!のテムズ川。
ど真ん中に架かった橋には、「LONDON BRIDGE」とあります🌉

ロンドンの橋と言えば、最も有名なのはタワー・ブリッジでしょう。しかし、タワー・ブリッジは1886年着工・1894年完成なので、地図の制作はタワー・ブリッジ完成の140年ほど前。当時まだ存在しませんでした。

そしてもう一つ、有名なのは、ウエストミンスター寺院やビッグ・ベン、ロンドン・アイ🎡といったランドマークを望むことのできるウエストミンスター橋でしょうか。

2019年夏、筆者撮影。
このときはビッグ・ベンが工事中でした。左の観覧車がロンドン・アイ。

ということでちょっと勿体ぶって遠回りしてしまいましたが、正解は、誰もが口ずさんだことのある「ロンドン橋」!🇬🇧

1番右がタワー・ブリッジ、右から2番目に我らがロンドン橋、
ググっと曲がってウェストミンスターです。

「ロンドン橋落ちた」(”London Bridge Is Broken Down”)の童謡って今考えるとすごいことを明るく歌い上げていて驚きますが、このロンドン橋、たしかにかつて、本当によく落ちていたようです。

クローズアップしてみましょう。
中央を横切る「GRACE CHURCH STREET」、そしてこの道と⑰の近くでクロスする「FENCHURCH STREET」が見つかるでしょうか。

これをGoogleマップで探してみると…

見つかりました!

三角形の区画が出来ているなどの変化もありますが、大きな通りは変わらず今もある模様です!!💂🏻‍♂️

ティヴォリのエステ邸🇮🇹

最後に、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ『ローマの景観』より《ティヴォリのエステ邸》(1773年)を検証していきます。
慶應で学芸員実習をされた方には見覚えがある作品なのではないでしょうか👀

ヨーロッパの伝統を豊かに残したイタリアは、グランド・ツアーの最終目的地となり、この地を訪ねた人々はお土産としてこうした風景を持ち帰ったのです。

Ask KeMCoの解説を引用します。

ピラネージ(1720-78)は建築家、考古学者、理論家であり版画家。『ローマの景観』はピラネージが1740年代後半から没年まで制作し続けた135点からなる銅版画の連作。彼は古代遺跡や当時の記念碑的建造物を、透視図法や明暗対比を強調することで壮麗に、魅力的に描き出した。観るものに強烈な印象を与える濃密で力強い画面は、大判の紙に、エッチングの腐蝕を重ねることでできた多様な刻線によって生み出されている。ティヴォリのエステ邸は、壮麗な水の庭園で名高い16世紀に建造されたヴィラ。ティヴォリは当時より名勝地の一つであり、多くの画家がこの地を描いた。(後略)

Ask KeMCoより(参照:2024/11/26)

多くの画家が描いた画題×ローマの景観を長年描いた画家ともなれば、気合が入っていたに違いありません。早速、実風景と比べてみましょう!

画面下部、中央左手に「VEDUTA DELLA VILLA ESTNSE IN TIVOLI」とあります。イタリア語で「ティボリのエステ邸の眺め」ということのようです。

ティボリのエステ邸は、現在世界遺産に登録されています🏘️
ティボリは、ローマから車で40分ほど、いわゆるローマ郊外にあります。ちなみに歩いていくと8時間🏃‍♀️

この別荘は、16世紀にエステ家の枢機卿イッポリート2世の命によって建造されたもの。大小500もの噴水があるそうです…!⛲️

グーグルマップで上から眺めてみると、お庭の整然たる佇まいがよくわかります。

ということは、この↑画面上左下から右上の方向に見てみると、
本作のような一点透視の描写に適した画角が見つかりそうです🔭

と、ここまでは順調かに思えたのですが…ストリートビューを探せども探せども、ここまでの傾斜もなければこんなに荒れてもおらず、何か違う様子。

こういう感じ…なのでは…と思える地点もないわけではなかった(⇓)のですが、ピラネージの図版では噴水も枯れているようですし、ちょっと違う…?!というのが正直なところです。

これ以上実景との相違は現地を訪ね歩かないとわからないのかもしれません。
とはいえここから分かるのは、ピラネージがより枯れた、廃墟的な風味をプラスして劇的に描いていたらしいということです。

この地を訪れた人々がこうした版画を持ち帰ったというのですから、人々がピラネージに求めたのは、実際の景色をそっくりそのまま描くよりも、演出の加わったピラネージ的世界観だったのではないかと想像されます。

UNESCOから出ているこの動画でもこの別荘の様子をうかがい知ることが出来ますよ🕵️

おわりに

展示を見るたびにああ旅に出たい…と現実逃避をしてしまう筆者ですが、昔の写真を繰り出したり、グーグルマップと展示作品を見比べながら細かく地名を追いかけたことでその思いを一層強くしました。

日本で海外旅行が自由化されたのは1964年、ちょうど60年前のことです。
かなり最近まで、海外の景色、海外の地形はもっと非現実的で、憧れの対象だったのだろうと思います。そして、念願かなって旅に出られることになっても、不安が伴ったであろうことは想像に難くありません。正確な情報は、何よりの羅針盤となったことでしょう。

展示室でお気に入りの風景を見つけたら、旅に出て確認…とはいかないまでも、実際の景色を探してみるのも一興ではないでしょうか。ぜひお試しあれ!


【開催中!】展覧会「Land-scape-お持ち帰りできる風景」

会期|2024年10月7日(月)~12月6日(金)
   11:00–18:00【土日祝休館】
特別開館|10 月19 日(土)、11 月23 日(土・祝)
臨時休館|10 月21 日(月)、11 月25 日(月)
入場|無料、事前予約不要
主催|慶應義塾ミュージアム・コモンズ
協力|慶應義塾大学アート・センター、慶應義塾大学三田メディアセンター


★ギャラリートーク申込受付中!★
☞お申し込みはこちらから!
日 付|2024年12月5日(木)15:00〜16:00
場 所|慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)
話 者|桐島 美帆(慶應義塾大学アート・センター学芸員)
※当日のご参加も可能です。お申し込みをいただいた方より優先でご案内いたします(先着順、定員目安:15名程度)。


文責:KeMiCo Honoka