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KeMCo「臥遊展」の楽しみ方【番外編】KeMCoで描いて&書いてみた✍️⑴前編

KeMCoでは、10月2日から「常盤山文庫×慶應義塾 臥遊―時空をかける禅のまなざし」展、通称「臥遊展」を開催しています。
noteでも「展覧会の巡り方」という記事で臥遊展の魅力をご紹介しました😊

今回は、芸術の秋(まだギリギリ晩秋でセーフのはず……!)を盛り上げる、会場を飛び出た臥遊展の楽しみ方をご紹介したい✨という考えのもと、番外編として、「ウラ臥遊展」のようにちょっとマニアックな楽しみ方をご紹介してみたいと思います!


その一、描いてみる

①イラストにしてみる

ところで、みなさんはKeMCoのInstagramはご覧いただいておりますでしょうか……?

KeMCo情報を続々更新しているKeMCoのInstagramで、今回の展覧会に合わせて投稿されているのが、担当学芸員お手製イラストによる見どころ紹介です🌸
詳しくはこちらのnote記事でもご紹介しています😉

例えば、こちらは展覧会ポスターを飾っている「海棠白頭翁図」の紹介投稿です⏬

手の込んだイラストと作品をよくよく見なければわからないようなところにまで目を向けさせてくれる解説コメントが興味深い、力作シリーズになっています👀
筆者(KeMCo学生学芸スタッフ)は普段、美術史学を専攻して学んでいますが、どんなに作品を注意深く見ているつもりでも、「見ているようで見ていない」部分があります……意識しないとぼんやり見逃してしまう見どころがあるのです。
でも、描いてみると、そんな風にして見逃していたポイントに気づくことができる!と先生方はおっしゃいます。

たとえばこのムクドリを描くとき、担当学芸員さんはなんだかお顔がしっくりこないな…と思いながら「舌👅」を描いてみたら、とってもしまって見えるようになった!とのこと。他にも鳥を描くとき、舌が描かれることは結構あるんだそうです。

たしかに舌が覗いています👅

そういえば浮世絵に描かれる美人たちにも歯がしっかり描きこまれてたりしたな…なんてことも思い出しました🦷
描いてみることで、構図や描きっぷり、色遣いの工夫を汲み取る、絵描き的視点🧑‍🎨が広がるんですね💡

②🎥会場で雪舟の筆運びを見てみる

実はKeMCo展覧会会場でも「描いてみる」様子をご覧いただくことができます!!
展示会場を出て、階段を下に降りると、2階に映像展示コーナーがあります。

こちらは展示中の作品《山水図》が完成するまでの様子を、水墨画家の大竹卓民先生の助言のもと、KeMCoMスタッフの海老根優菜さんがアニメーションとして再現した、という伝統技術とデジタルがハイブリッドに融合した映像作品です。

アニメーションを見ていると、次々と墨の彩りが広がる中に少しずつ景色が出来上がっていく様子にワクワクします😳一つ一つのパーツは軽い動きなのに、奥行きが出てくる不思議……筆と墨の楽しみが伝わってきます👀

雪舟もその昔、デモンストレーションのように集まった人々の前で山景を描いて見せたのではないか、とのこと。私たちもその当時の驚きとワクワクを、この映像作品を通して追体験する楽しみがありそうです✨✨

その二、書いてみる(前編)

ここまで、絵画作品を「描いてみる」という楽しみ方をご紹介してきました。
しかし筆者には描くのはハードルが高い🤨でも何か自分でもやってみたいな……!ということで、「書いてみる」ことにしました🖌

というのも、今回の展覧会に出品されているのは絵画作品だけではありません。会場にお越しいただいた方は、絵画作品に絵の説明や絵に合った詩文が添える「賛」や、禅僧が認(したた)めた教えの書など、たくさんの文字も目にされたことと思います。

そこで今回は、お客さまを最初にお迎えするRoom2の入り口付近に展示された4つの作品を「臨書」※してみました!
試みに、全て同じ筆と墨、同じサイズの紙(半切)を用いて、二行ずつ書き出してみています。書いてみてわかったそれぞれの違いや見どころを、皆さまにも共有できたら……と思います😊✨

※「臨書(りんしょ)」とは、お手本を見て書くこと。今回は、展示作品をお手本にしてそっくりそのまま書くということを目指しました。

臨書×4 !!

まだまだ勉強途中の筆者の趣味の範疇ですので、以下どうかお手柔らかに、優しい目でご覧いただけましたら幸いです🍀👀🙇🏻‍♀️

No.1 環渓惟一筆偈

《環渓惟一筆偈》

何を隠そう、最初に字を見たときに惚れ惚れして書いてみたい…!と思わされたのがこちらの作品でした。伸びやかで素早く書かれたようでありながら、しかしまっすぐ芯がある字。背筋が伸びるような姿勢の良さと、それでいて真面目すぎず爽やかな全体感が魅力的です。

しかし、取り組んでみるとなかなか上手くいかず愕然。書体を写し取ろう!!として筆に迷いが生じるとそのリズムはすぐに失われてしまい、なんだかもったりしてしまったのです……例えば整った楷書の古典の中でも、欧陽詢『九成宮醴泉銘』のような、やはり線の質を固く保ちつつハネなどでしなやかさを出す技量と、芯の通った、かつ伸びやかに外側へたわむ姿勢の良い字形を基礎としてしっかり書ける、そんなタイプの方が書く書なのではないかと感じました🤔(修行が、足りなかった……)

そしてこの冒頭部分の見どころはなんと言っても、同じ字の繰り返しが絶妙に心地よく書き分けられている点でしょう。

五言絶句が書かれた冒頭部分では、
「視」「色」「欲」が繰り返し登場し詩の心地良いリズムを作り出します。

比較的素早く迷いなく、しかしハネやトメ、曲がるところなどの抑えるところは抑えて書く、というタイプの環渓惟一さん。きっと五言絶句という詩の形式ゆえの心地良さと、教訓的な内容を同時に噛み締めながらリズミカルに書き進めていたはずです。

そこで、遅ればせながら、ここでしっかりと、書かれている意味を考えてみることにしました。作品解説によると、「僧が受戒のときに唱える文句を含んだ、僧としての心のあり方」が詠み込まれているそうです。

形あるものを見てもそれを心に思い浮かべることなく、欲望の対象を見ても心に欲が起こらない。そうであれば、水中にいながら水に濡れない蓮よりも、もっと清浄な心を保てるだろう。

https://objecthub.keio.ac.jp/ja/object/238

これを踏まえてもう一度作品を見ると、冒頭部分で繰り返される「視」「色」「欲」は、どれも二回目の方が比較的楷書的に、一画一画を丁寧に書いて勢いが出るのを抑えているような印象。二度目だからと言って調子に乗って同じように筆を走らせるのではなく、あえて自らを戒めて、噛み締めるように書いたのではないかと思わされます。

清浄な心の境地__ここまで苦戦する自分の気分を高めようとかけていた作業用BGMを止めると、夜の静寂と冷たい空気が流れます。長く深呼吸をして、筆の墨の量を整えて……この書を書くにはたっぷりの少し手前、どの字も程よく湿らせて伸びやかに擦れなく書く余裕のあるくらいの量がちょうど良さそうです。そして、静かに入筆。リズム感を止めないように、自分の呼吸を整えつつ、体重を上手くかけたら引いたりすることを意識しながら、集中して書いてみて……なんとか、臨書として形になったのでは、ないでしょうか。

冒頭部分の臨書
「視色無色想視欲無欲意蓮花不着水清浄超于波」

この作品が1番苦労をし、枚数を重ねたものの、芯がありつつ緩急のある線質や五言絶句の素敵なリズム感を活かした構成などまだまだやるべきことが残り、未だ納得いく一枚に辿り着きませんでした……悔しい限りです🤧

このような調子で、あと三作品については後編で取り上げたいと思います!お楽しみに😊

展覧会終了まで残りわずかではありますが、見て楽しむもよし、自分で描いて・書いて楽しむもよし!存分に「臥遊展」を楽しみ切りましょう💨


「常盤山文庫×慶應義塾 臥遊―時空をかける禅のまなざし」

【会期】2023年10月2日(月)〜12月1日(金)
11:00–18:00 土日祝休館
特別開館|10月14日(土)、11月25日(土)
臨時休館|10月16日(月)、11月20日(月)
※期間中に展示箇所の入れ替えをする作品がございます。
前期10月2日(月)~11月1日(水)、後期11月2日(木)~12月1日(金)

【会場】慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)
どなたでもご覧いただけます(事前予約不要)


文責:KeMiCo Honoka