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福澤流、無謀な頼み事の通し方!?第2回「オブジェクト・リーディング•リーディング: 精読八景」

みなさま、こんにちは!

前回のnoteでは、エドガー・アラン・ポーの亡霊がKeMCoに現れる可能性についてご紹介しましたね…!
(未チェックの方は、こちらをチェック!)

今回は、慶應義塾福澤センターの「見松院様御嘆願口上之覚(榎本武揚老母の嘆願書案文)」をご紹介致します!

連携展トップ-2


・無理なお願いは手紙が吉!?

突然ですが、皆さんは最後に手紙を書いたのはいつでしたか?

便利なSNSで溢れる現代社会において、わざわざ手紙を書くなんて面倒だな、とお思いの方も多いのではないでしょうか?

夏の手紙といえば暑中見舞いですが、わざわざ葉書を買って、切手を買って、ポストに投函して…という手順を考えると、ついついSNSで手軽に済ませてしまおう、と思ってしまいますよね…

しかし…!
この記事を読めばそんな考えも、変わるかも知れません…!

榎本武揚といえば、徳川慶喜の新政府への恭順方針に応じず、軍艦開陽丸で函館に向かい、五稜郭に立て篭もった人物として知られています。


そんな榎本は、あの「ジョン万次郎漂流記」でおなじみ、アメリカ帰りのジョン万次郎に英語や洋学も習った国際派でした。

しかし、みなさまもご存知の通り、榎本は結果的に箱館戦争において降伏し、東京で投獄されることとなってしまいます。

そんな息子の身を案じた榎本の母は、獄中の息子に一目でも面会を許して欲しいと明治政府に嘆願することにしたのでした。

一見無謀な願いを叶えるべく、榎本の姉によって清書され出来上がった嘆願書は、山岡鉄舟らが提出に協力しました。

そして、杖をついた(!)榎本の母によって提出されたところ、見事面会が叶ったというのです!

・福澤流 無理なお願いの通し方

そんな手紙が、なぜ慶應義塾に所蔵されているのでしょうか。

実は、言わずと知れた慶應義塾の創始者福澤諭吉と榎本は、遠縁に当たる親戚だったのです。

福澤は、榎本の母の希望を叶えようと、この嘆願書の案文を立案します。

その時のアドバイスがこちら…


「分らない理窟を片言交りにゴテゴテ厚かましく書て」

無理なお願いを通したい時、普通は下手に出てしまうものですよね。
ところが福澤は、『福翁自伝』で「分らない理屈」を「厚かましく」書いたと振り返っているのです。

このメンタリティ、現代人の我々も学ぶべきところが多いかも知れませんね…。

・書状の「オブジェクト・リーディング」で広がる世界

この案文は福澤が、書き手は榎本の母であるというていで書いたものであるので、所々、漢字で書いた部分をひらがなに直すなどの修正が見られるようです。

アジア漢字文化圏では、女性たちはいわゆる政治の表舞台で用いられる「漢字」とは異なる、独自の文字を用いてきました。

日本ではひらがな、韓国ではハングルに該当するものです。

ひらがなは「女手」とも呼ばれますよね。

現代では、性別関係なく漢字やひらがな、カタカナを併用しますが、この時代はまだ、用いる文字に性差があったのですね。

このように、手紙や書物からは、書かれている内容のみではなく、書き手や読み手の時代の様々な文化を垣間見ることができるのです。

例えば、現代でも、私たちが書店に並ぶ本を手に取るきっかけは様々ですよね。

 表紙のデザインが気に入ったから…
 帯に◯◯大賞を受賞したと書いてあるから…
 薄くて読みきれそうだから…
などなど…

数百年後の未来人が、私たちの時代の本を手に取ったら、様々な「発見」があるのかも知れませんね。

文章だけではなく
 どのような文字で(漢字?ひらがな?もしくはアルファベット?)
 どのような道具で(筆?鉛筆?ボールペン?)
 どのような土台に(紙?布?金属?)
書かれているのかなどに着目してみると、「オブジェクト・リーディング」に一歩近づくかもしれません。

みなさまがもし、現代において、どうしても通したいお願いを誰かに伝えるとしたら、どのような書面を作りますか?

…もしくは、榎本の母のようなシビアなお願いではなくても

今年の夏は、しばらく連絡を取っていない誰かに、暑中見舞いを出して見てはいかがでしょうか!🍉

慶應義塾福澤センターからはもう一点、「東台大戦争図 明治元戊辰年五月十五日」が出展されます。
(今回も、作品画像の一部を、ちらっとお見せいたします!)

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「見松院様御嘆願口上之覚(榎本武揚老母の嘆願書案文)」との共通点とは一体なんなのでしょうか。

是非、KeMCoにいらして確認してみてくださいね。

(文責 : 学芸スタッフKeMiCo KOYURI)

「オブジェクト・リーディング : 精読八景」展
会期は8月16日から9月17日
開館時間 11:00から18:00(土・日・祝日休館)です。

ご予約はこちらから
※入場には事前予約が必要です。