展覧会「Artist Voice II: 有元利夫 うたのうまれるところ」の魅力に迫る:後編
「Artist Voice Ⅱ: 有元利夫 うたのうまれるところ」のキュレーションを担当された新倉慎右先生への突撃インタビュー後編となります。画家 有元利夫の素描をとりあげた展覧会(〜4月22日まで開催中)について、前編以上に内容を厚くお届けします!
↓前編はこちらから
ー 素描類を見ていると、エジプトらしきものや仏像らしきものが見当たりますが、有元さんは昔の身体表現なども参考にしていたのでしょうか?
新倉先生「そうですね。元々、有元さんはルネサンス期の人体をかなり意識していたそうで、それは彼の完成作品からも分かると思います。有元さんがイタリアを訪れたときに出会ったフレスコ画などの美術を見た際、そこに真の人間のリアリティがある…と見出したそうで、有元さん独自の人物像が出来上がったのも、こうした影響からと考えられます。
そうしたイタリアの古い美術を見たときに、彼は翻って、仏像のような日本の古いところとも関係があるのだと考えました。有元さん曰く "西洋の絵画に似ていると言われることはあるけれど、人が思っている以上に日本の古い美術からも影響を受けている" そうで、それはこうした素描からも見てとれますよね。有元さんはルネサンスであったり、日本の仏像であったり、古いものに親近感を覚えて人体のリアリティを見出していたのです。」
ー なるほど。確かに西洋だけでなく、日本の影響も見てとれますよね。…今回、展示室の奥には、部屋のようなスペースもありますが、これはもしかして、有元さんのご自宅を再現しているのでしょうか?
新倉先生「そうなのです。できる限り忠実に、有元さんの生前の制作環境を部分的に再現しています。机も実際にご自宅にあったものを持ってきていただき、そのうえに、生前使用されていた画材を並べました。左手前に展示しているのは、有元さんのご自宅のありとあらゆるところに常備してあったスケッチ道具一式です。有元さんは "思いついたらすぐに描きたい!" 性分だったそうで、故に、思いつく度に机に戻るのは時間が勿体ない…という考えから、家中の決まったところにこのセットを置いていたそうです。また、部屋の壁にも様々なモノが掛けてあり、なかにはインスピレーションを受けていたであろう絵画の切り抜きや、有元さんご自身が描いたタブロー画(制作途中のもの)などもあったそうです。ほかに、有元さんは額縁に強いこだわりがあったそうで、ヨーロッパの骨董市などでお気に入りのものを買い、その額縁を(作品を入れずに)そのまま壁に飾っていたそうです。」
ー すごい。そうした背景も含めて、今回の展示は、作家の意匠へのこだわりが強く感じられますね。
新倉先生「今回は作品数がとても多かったので、最初は分類して展示した方がいいのか…とも考えましたが、逆にバラして展示することによって、ランダム感や多様さが出て、有元さんが如何に様々なモノ・コトに興味を持ち、多様な描き方・表現を駆使していたのかということが伝わりやすくなるかなと思い、このような展示構成にしました。」
ー 確かに、完成された作品だけを見たときは、あまりにも確立されたスタイルに「有元さんってどんな人なのか分からないかも」と思ってしまったのですが、今回の展示では、有元さんの色々な一面が見えてきて、とても身近に感じられました。作品数もとても多いので、その一つ一つを見ながら、有元さんはどのような人なのだろう…と考える隙間も生まれて楽しいです。
ー それでは続いて、新倉先生のお気に入りの作品を教えてください。
新倉先生「どの作品にも思い入れがあるのですが、特に、この花火の絵は好きですね。他にも、今回の展示作品には可愛いものが多くて、雲を持っていたり、吹いていたり、顔はルネサンスっぽいのに動きは仏像っぽいものがあったりします。また、有元作品に関しては、やはり "ボリューム(を持った)表現" が特徴的だと思うので、遊びで描いているように見えても、ちゃんとボリュームのある体つきが描かれた作品などは、とても魅力的に感じますね。」
ー ボリューム!確かに、その点に着目して作品を見てみるのも面白いですね。…最後に、これから本展覧会に来場される方にメッセージをお願いします。
新倉先生「今回の展覧会は、純粋に、有元さんを知らない方でも楽しめますが、有元さんの他作品を少しでも見てから来ていただけると、有元さんの芸術家としての奥行きを感じられる展示となっております。芸術の素描、それも素描展というのは、通常あまり注目されないことが多いのですが、その作家の背景を知ったうえで見てみると、より意味合いが明確に分かりますし、「作家が一番最初に作るもの」と捉えて見ると、作家がより身近に感じられるようになるはずです。なにが作家の "核" で、なにを表現したくて描いているのか、といったことに思いを馳せながら鑑賞してただくと、より一層楽しめるものと思います。ただ、そう身構えなくてもきっと素描の魅力・作家のリアルが感じられるはずなので、お気軽にお越しください。」
…インタビュー前に(少しだけ)有元作品を見ていたKeMCoM、今回の展示を通して、有元さんのこだわりや個性が垣間見えた気がしました。新倉先生の言うように、遠い存在であると思っていた作家さんをとても身近に感じることができました。作品数もとても多いので「大学でこんな贅沢な展示を見れるなんてすごいね…」と感動すること必至です🥺
..展覧会「Artist Voice Ⅱ: 有元利夫 うたのうまれるところ」は、2022年4月22日(金)まで開催中です。この機会に、ぜひご来場ください。
KeMCoM KAHO & RUKA