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KeMCo臥遊展シンポジウム「常盤山文庫コレクションがつなぐ、モノと人のネットワーク」レポ📝

去る11月14日(火)、KeMCoで開催中の「常盤山文庫×慶應義塾 臥遊―時空をかける禅のまなざし」展に合わせ、シンポジウム「常盤山文庫コレクションがつなぐ、モノと人のネットワーク」が開かれました!
白熱したシンポジウムの様子をKeMiCoスタッフがレポートします🗒🖋

⏩「臥遊展」についてはこちらの記事をチェック👀✨閉幕まであと少し!


登壇者

ご登壇の先生方はこちらの方々でした👨‍🏫👩‍🏫

佐藤サアラ(常盤山文庫主任学芸員)
畑靖紀(九州国立博物館主任研究員)
三笠景子(東京国立博物館主任研究員)
松谷芙美(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師)

開会挨拶:池谷のぞみ(慶應義塾ミュージアム・コモンズ機構長)
司会:本間友(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師)

https://kemco.keio.ac.jp/all-post/20231114/
登壇者の皆様
会場は盛況!

こちらの皆様のほか、KeMCoが主催し、常盤山文庫のご協力によって開催されたシンポジウムとあって、公益財団法人常盤山文庫 菅原健理事長も駆けつけてくださり、冒頭にご挨拶くださいました😊また、今回、会場には50名弱のお客様がお集まりくださいました。学生や学内の先生方だけでなく、学外からも大人の皆様が多くご来場いただいている印象でした!

どんなシンポジウム??

モノと人のネットワーク

さて、登壇者の方々のご所属を拝見すると、展覧会タイトルにある「常盤山文庫」の他に、九州国立博物館東京国立博物館という名だたるミュージアムのお名前が並んでいてワクワクソワソワしてきます。こちらの2館と我々KeMCoの共通点、それは、常盤山文庫コレクションの「寄託先」であることなのです。つまり、現在、常盤山文庫の蒐集品が九州国立博物館にも東京国立博物館にも、そしてKeMCoにも預けられている、ということです。

※寄託(きたく)=作品の所有者が、作品の所有権を保持したまま保存管理・活用(研究や展示)を美術館等の施設に委ねること。所有権ごと譲り渡す「寄贈」とは異なり、「寄託」は決められた期間のうちの管理契約。

ん?一つのコレクションなのにいろんな館に分かれている……?

と、疑問を抱かれた方がいらしたら、それこそが今回のシンポジウムのテーマに繋がります。
コレクション(蒐集品の一群)には、モノ(作品)があり、モノを集めた人(蒐集者・所蔵者)がいて、さらにそれらを守り伝えるたくさんの人々(学芸員・美術館・社会)がある__そんな、モノを取り巻く様々な人の手の物語を、今回は主人公に「常盤山文庫」を迎えて、紡ぎ出していく試みなのです❤️‍🔥

シンポジウムの流れ

まずはKeMCo・池谷機構長の開会挨拶、
続いて登壇者の学芸員4名の皆さんからご発表をいただきました!
最後に、会場からの質問・登壇者同士の質問タイムが設けられました。

何しろ登壇者の皆さんのコレクション愛が溢れ、お話に熱がこもり、一日中まだまだ聞いていたい……!と後ろ髪引かれる思いの中に閉会した大充実・大ボリュームのシンポジウムでした。

ということで、興味深いお話の全てを掲載することはできませんが、ぐぐっと要約してお伝えできるよう努めます😤💪

「ネットワークによる作品の未来」

壇上奥・佐藤サアラ先生

佐藤サアラ先生(常盤山文庫主任学芸員)は、常盤山文庫の特長を
⑴作品を軸とした学びの場
⑵展示施設を持たないコレクション
であること、と仰います。

⑴作品を軸とした学びの場

常盤山文庫コレクションの最初の蒐集は、意外なことに仏像だったそう。仏像コレクションの好評を受けて創設者で実業家の菅原通濟(1894-1981)が次に購入した大物は、浅野公爵家伝来の100本余りの掛物でした。KeMCo展示中の《芦葉達磨図》《蝦蟇仙人・鉄拐仙人図》はその中の作品です。

ところが、このまとめ買いが玉石混交だったようで……売主から「作品を買うなら勉強しなくちゃダメですよ」と言われてしまいます。
そこで、当時の美術史家・松下隆章先生をアドバイザーとして迎えます。「自分の中にものさしを作って集めるのが大事」と言った松下先生。松下先生の目を持って入手された《帰郷省親図》(重文)《送海東上人帰国図》(重文)《茉莉花図》(国宝)はその後の常盤山文庫の「ものさし」となりました。

そして、「作品は一つでは意味がない。作品同士の繋がりがないと物を語れない。」という信念のもと、現在に至る4代の理事長と、ご縁の中に、墨蹟コレクション、墨蹟と書画のつながりを語るための絵画コレクションの拡充、墨蹟を飾る美しい彩としての陶磁コレクションが集められ、現在のコレクションの柱を成しているそうです。

玉石混交の品々を手にしてしまった、という通濟の最初の躓きは、「実際に作品を見ながら学ぶ」という蒐集スタイルを生み出しました。
鎌倉・常盤山の邸宅に集まって画家や建築家、美術史家も入り混じった仲間内で鑑賞会をしたり、松下先生と慶應義塾の教え子たちの勉強会が開かれたり……作品が集まると同時に、研究者たちも作品の周りに集まって作品を見る、学びの場であったそうです。

作品を観る会芳名帳には錚々たるお名前がずらり👀

さらに近年では、「常盤山文庫中国陶磁研究会」と言って、最初は墨蹟の添え物として収集した陶磁を中心に据え、実際に研究者たちで見ながら議論し、検討する会が行われ、現在までに7冊の会報と展覧会での成果発表が行われています。

⑵展示施設を持たないコレクション

そんな常盤山文庫、消防法の改正により、鎌倉・常盤山の邸宅での展示が不可能になってしまいました。展示・保管設備を持たなくなった現在、上述の3館(九博、東博、KeMCo)に作品が寄託されています。
それは単なる「場所借り」ではなく、「活用」のための寄託。知恵を借りられる専門家と研究意識を持った学芸員の存在を信頼してこそ、それぞれの目的に合った寄託をお願いしているのだそうです。
東京国立博物館・九州国立博物館といった大規模館には、その膨大なコレクションの隙間を埋め、常設展示を充実させられるような作品群を。KeMCoのような大学ミュージアムには、調査研究・学習など展覧会以外の場での活用を視野に、寄託をしているとお話しくださいました。

筆者はお話を伺いながら、常盤山文庫の活動に通底する作品を学び、活用していくという強い想いを感じ心打たれました。

3館の学芸員さんからのお話からは、そんな常盤山文庫の作品がどのように活用されているのか??という点を重点的に抜粋する形でレポートいたします⚡️

「天神さまのネットワーク ミュージアム連携の現場から」

九州国立博物館(以下、九博)には、常盤山文庫コレクションの中でも天神さまにまつわる作品群が寄託されています。

右から二番目・畑靖紀先生

畑靖紀先生(九州国立博物館主任研究員)は、九博の沿革と、九博の所蔵品における常盤山文庫寄託品の重要性についてお話しくださいました。

九博は、国立の博物館の中では新しく、2005年に太宰府の地に開館しました。「日本文化の形成をアジア史的視点から捉える」というコンセプトのもと、対外交流をテーマとした平常展示(常設展)を行っているそうです。

⑴菅原道真と太宰府とその後

平常展示に設けられた5つのテーマのうちの一つに、「遣唐使の時代」(IIIテーマ)があります。日本と唐の交流を担った遣唐使制度は630年に始まり、894年に廃止されましたが、いかにも、その廃止に携わったのが菅原道真(845-903)でした。
その道真が失脚後太宰府に左遷させられ、亡くなるまでを過ごしたこともよく知られています。

そんな道真の没後の逸話に、「渡唐天神伝説」があります。曰く、道真が没後、太宰府・崇福寺の僧・円爾に禅を学びたいと伝えると、円爾は母国、中国・宋にいる自分の師・無準師範に弟子入りするよう勧めた。すると、天神は一夜のうちに中国へ渡り、無準師範の教えを受けてその証である袈裟を見せに円爾の元に帰ってきた____天神信仰と禅宗の交流、遣唐使廃止後の中国との交流の様相を物語る伝説であり、「交流」の歴史です。

⑵歴史を語るモノ

「こうしたことを展示として見せるには、モノ(作品実物)が必要」と畑先生は仰います。
帰ってきた天神の姿を描いたものを「渡唐天神像」と呼びます⏬が、
歴史を語る作品があってこそ、伝説の存在を知ることができ、さらに作品を通してこうした交流の歴史をより多くの人に知ってもらうことができるのですね。

KeMCo展示中の《渡唐天神像》

2005年に開館した九博には、展示可能な作品が極めて少なかったのだそう。そこにおいて、常盤山文庫には、「菅原」さん繋がりで蒐集された天神の画像の所蔵がありました。2023年現在、九博が管理する232件の天神に関係する絵画のうち、常盤山文庫からの寄託品は207件にも及ぶといいます。

常盤山文庫の作品が展示された様子

これらは九博で交流の歴史を語る上で、質・量ともに重要な役割を担っているのだそうです。これまでに二回の特別展や、2年ごとの天神さまにスポットを当てたテーマ展示においては特に中心的に活用されているとのこと、九博を訪れる際は常盤山文庫の天神さまと出会えるかどうか、チェックしてみたいものです👀✅

筆者は、歴史を語る上でのモノの重要性を改めて認識するとともに、語られるべきことがある場所にモノを置く、という持ち主(人)の高い意識とネットワークの存在が印象に残りました🗒✏︎

「東京国立博物館と常盤山文庫の陶磁器について」

東京国立博物館(以下、東博)には常盤山文庫コレクションの名品、国宝や重要文化財の指定を受ける品々が寄託されているほか、陶磁器コレクションの寄託があります。東博でも「創立80周年記念 常盤山文庫の名宝」展で作品を展観していました。

「創立80周年記念 常盤山文庫の名宝」展の様子
左から二番目・三笠景子先生

三笠景子先生(東京国立博物館主任研究員)は、昨年150周年を迎えた日本で一番長い歴史を持つ東博における、陶磁器コレクションとそれらをより「活性化させる」存在としての常盤山文庫寄託品ついてお話しくださいました。

⑴東博の陶磁器コレクションと常盤山文庫コレクション

総所蔵品数なんと12万件(うち寄託品は2668件)を誇る東博には、展示箇所が、本館・東洋館・平成館・表敬館・法隆寺宝物館・黒田記念館と複数存在します。東博には現在計185点寄託されている常盤山文庫の作品は、これら各所で展示されたことがあるのだそう。アジアの古美術品に特化した東洋館に限らず展示されたことがあるということは、寄託品の中に文化をまたがる質の高い作品が含まれているからこそのこと、と仰います。

陶磁器に目を向ければ、東博の陶磁器コレクションは全体で約1万件。古代〜清代までの陶磁器の歴史を網羅的に説明可能な横河民輔コレクション、その横河コレクションを補完するように寄贈された作品群です。そのうち87件の常盤山文庫の寄託品は、単なる鑑賞用の作品群ではない故に、東博のコレクションを活性化させることができるのだそう。

当初より研究対象として集められているので、東博の展示だけでなく研究においても活用でき、そのことが東博の所蔵品を活性化させることがある、といいます。

彩り鮮やかな陶磁器に会場も興味津々です

⑵作品が作品を繋ぐ

例えば、横河コレクションの《白磁杯》は、唐白磁の名品として知られてきましたが、常盤山文庫コレクションの類例と並べて見たところ、隋代・7世紀に遡る作品であることが判明したのだそうです。
その成果は、東博の展覧会で両者を一緒に展示することによって広く示されることとなりました。

また、ある名品が東博に寄贈された際、その寄贈者が常盤山文庫所蔵品の旧蔵者でもあった、というご縁が作品を繋いだこともあるそうです。
ここでは割愛させていただきまして、詳しくはこちら⏬

作品の展示だけでなく、研究によって作品を知り、知られざる魅力を引き出していくという「活用」の側面と、そこにおいて補助線を引くかの如く役目を果たす寄託品について思いを馳せつつ拝聴しました👂

「コレクションが生み出す モノと人のネットワーク 慶應義塾編_過去・現在・未来」

今年で開館3年目のKeMCoは、常盤山文庫とのお付き合いもまだ3年目。九博・東博と比べるとまだまだ新しい関係です。国立博物館の両館と比べ、大学ミュージアムであることも大きな違い。

壇上手前・松谷芙美先生

松谷芙美先生(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師)は、そんなKeMCo・及び慶應義塾における「寄託」からスタートしたコレクションと大学ミュージアムならではの作品の活用についてお話がありました。

⑴KeMCo寄託の常盤山文庫コレクション

KeMCoに寄託されている常盤山文庫コレクションの中心は室町時代の絵画作品です。開催中の「臥遊展」でも展示されています✨

展示中の作品はこちらからご覧いただけます⏬

また、展示中の作品以外の寄託品として、前田青邨、富岡鉄斎による近代絵画も含まれているのだそう。今後ぜひ拝見したいものです👀

⑵大学ミュージアムならではの活用

学芸員実習や文学部の美術史学ゼミ、KeMCo主催の授業では、こうした作品をガラスケース越しでなく直接に見る、という経験を学生に提供しています。KeMCoの授業には文学部に限らず経済学部、SFC、理工学部など学部やキャンパスを越えて参加する学生もいるそう。作品を見て、知識を得るだけでなく、言葉で記述していく体験は、他者と言葉を交わすきっかけにもなる、と仰います。

KeMCo講座の様子

こうしたできる限り直に見る経験を、授業だけでなく、展覧会ごとのワークショップを通して広げていきたいとのことです。
また、学内の所蔵品を掲出するデータベースKeio Object Hubは、学内外に向けて作品の存在に気づいてもらうことで、人とモノとのかかわり、ネットワークの構築につながっています。

学生スタッフの筆者もこのようなKeMCoの作品活用の恩恵を受けた一人として、自分の経験を振り返りながらお話を伺いました。KeMCoで受けた授業の中で初めてガラスケースを介さずに見た作品は、モノとしての手触りを色濃く伝えていて、生き生きとした魅力を帯びていました。KeMCo講座の中心軸であるObject Based Learningで、一見理解できなかったモノが、他の参加者の方とそのわからなさを細かく共有していくうちに何か見えてきた、という面白さは、在学期間中で指折りの印象深い感覚です😌✨ぜひこうした体験が大学ミュージアムを通して開かれたものになっていって欲しい!と思いました。

さいごに

シンポジウム終盤は、質疑応答・ディスカッションも盛況。まだまだ盛り上がれる!というところで、タイムリミットが来てしまいました⏰🐰

作品を蒐集するうちに、モノに引き寄せられた流れが、人が意識しないところで広がっていく__それを見守る存在として、美術館やコレクターがいるというところが、コレクションにスポットを当てることで見えてきた。そんなきっかけとしてのシンポジウムになった、という司会・KeMCo本間友先生からの締めの言葉を持って、惜しまれつつ閉場しました。

盛りだくさんのシンポジウムでしたが、登壇者の皆さんご自身のコレクションにかける思いには、作品に関わってきた多くの所蔵者の思いを代弁するかのように熱がこもり、聞いているこちらにも熱が伝わってきました🔥(そしてnoteが長くなってしまいました。)

作品の背景に多くの人の存在を感じながら、「臥遊」できるのも今週末12/1(金)まで!!駆け込み臥遊、お待ちしています😊✨🏃


「常盤山文庫×慶應義塾 臥遊―時空をかける禅のまなざし」

【会期】2023年10月2日(月)〜12月1日(金)
11:00–18:00 土日祝休館
特別開館|10月14日(土)、11月25日(土)
臨時休館|10月16日(月)、11月20日(月)
※期間中に展示箇所の入れ替えをする作品がございます。
前期10月2日(月)~11月1日(水)、後期11月2日(木)~12月1日(金)

【会場】慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)
どなたでもご覧いただけます(事前予約不要)


文責:KeMiCo Honoka


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