北斎と馬琴、意外な関係!?第3回「オブジェクト・リーディング•リーディング: 精読八景」
みなさま、こんにちは!
8月も中盤に差し掛かり、外を歩けば焼けつくような日差しで、フライパンの上の目玉焼きになったような気分ですね…🍳
前回のnoteでは、福澤流無理なお願いを押し通すコツについて、ご紹介いたしました!
(未チェックの方は、こちらをチェック!)
今回は、慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻の「鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月」をご紹介します!
・弓張月って?
この作品は、曲亭馬琴によってストーリーが書かれ、葛飾北斎によって挿絵が描かれた、読本(よみほん)というジャンルの書物です。
読本とは、「因果応報」や「勧善懲悪」調の、庶民向けの長編小説です。
曲亭馬琴といえば、のちに八犬伝で空前の人気を獲得した戯作者ですし、葛飾北斎といえば、おそらく世界で最も知名度の高い絵師なのではないでしょうか。
現代でも、漫画のストーリーと作画を分担しているコンビがいますよね。
そんな二人の才能が結集された「鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月」。
一体、どのようなお話なのでしょうか。
ストーリーは、主人公源為朝が保元の乱で伊豆大島に流罪となり自害するところから始まります。
冒頭から主人公が死んでしまうなんて…!と思ったみなさま、ご心配なく。
もちろん為朝は、しっかりと生き返り、多彩な登場人物たちとともに大活躍するのです。
(最近は主人公が冒頭で一度死んでしまうストーリーは珍しくないですよね…)
・北斎の手腕光るヴィジュアル!
現代でも、ホラーやスプラッタのジャンルは多くの人の関心を集めますよね。
椿説弓張月もまた、大衆小説であり、怪談の要素やグロテスクな描写が見られるのだそうです。
…という話になってくると、やはり挿絵の重要性が増しますよね。
浮世絵版画と同じ木版の凸版印刷による挿絵は、モノクロの表現になるので、絵師の技量が試されます。
しかし、そこは葛飾北斎。
大胆な枠組み度外視の構図や、現代のマンガのような表象で、ダイナミックに為朝らの活躍を描いていきます。
非常にキャリアの長い北斎ですが、実は生涯に幾度となく改名を繰り返しています。
「北斎」という画号は、日蓮宗北辰妙見菩薩への信仰から生まれたもので、長寿のための民間信仰であったのだそうです。
実際に、(乳幼児死亡率の高さが関係しているとはいえ)平均寿命が40代であった当時、その倍以上である90歳まで制作を続けて亡くなっています。
椿説弓張月を手がけた時期は、北斎号を名乗りメジャーになりブレイクした、まさに雄飛の時代。
唯一無二の北斎のダイナミズムが顕著に現れている時期なのです。
・ゴールデンコンビの難しい関係
実は、曲亭馬琴と葛飾北斎は友人同士で、一時期は同居をしていたこともあるんだとか。
この二人は、ゴールデンコンビとして名を馳せるのですが、関係は長続きしなかったそうです。
作家と挿絵画家の関係といえば、みなさまも一度は読んだことがあるであろう、世界的に有名な児童文学『不思議の国のアリス』も、二人の天才の葛藤の末に生まれたことをご存知でしたか…?
当初著者のルイス・キャロルは、本文に加え挿絵も自身が担当しようとしていました。
ところが、あまりの絵心のなさに苦心したキャロルは、当時の人気雑誌『パンチ』の挿絵画家をしていたジョン・テニエルに、挿絵の依頼をしました。
「アリス」シリーズは大ヒットしますが、その後テニエルは本の挿絵の仕事をやめてしまったと言います。
物語に強いこだわりを持っていたキャロルと、自身の絵に強いこだわりを持っていたテニエル。
二人の天才の関係は、うまくいかなかったようですが、現代でも長く愛されている作品を生み出しました。
性格が合わなくても、互いの才能にリスペクトを持って生まれた作品は、やはり長く愛されるものなのですね。
挿絵が本編に影響を与える例も少なくないのだとか。
「鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月」を本として認識すると、挿絵はついついおまけのように考えてしまいます。
しかしオブジェクトとして認識すると、さまざまな要素が影響を与えあって作品が構成されていることがわかります。
オブジェクト・リーディングを実践してみるには、良い例かもしれませんね。
慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻からは、アルブレヒト・デューラーの版画、《四人の魔女》が出品されます。
なんだか妖しげなな髑髏がこちらを覗いていますね…
四人の魔女と弓張月に共通するキーワードとは、一体なんなのでしょうか。
ぜひ、展示室で確かめてみてください!
(文責 : 学芸スタッフKeMiCo KOYURI)
「オブジェクト・リーディング : 精読八景」展
会期は8月16日から9月17日
開館時間 11:00から18:00(土・日・祝日休館)です。
ご予約はこちらから
※入場には事前予約が必要です。