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「彫刻を洗って、磨いて、見る――触覚鑑賞ワークショップ」って!?

突然ですがみなさま、屋外にある彫刻はどのようにメンテナンスされているのかご存知ですか?

美術館の収蔵庫内とは異なり、雨や風にも晒される屋外彫刻。

今回は先日開催された、プロの修復家の方々のレクチャーを受けつつ、三田キャンパス内の屋外彫刻洗浄を実際に体験するワークショップの様子をご紹介いたします!

三田キャンパスの屋外彫刻


日々何気なく歩いている三田キャンパスには、実はさまざまな屋外彫刻が設置されています。

塾監局のそばの朝倉文夫《平和来》、演説館前の柴田佳石《福澤諭吉胸像》、西校舎の脇の菊池一雄《青年》など…。

今回のワークショップは午前・午後の二部構成で、午前は朝倉文夫《平和来》を、午後は三田演説館前の柴田佳石《福沢諭吉胸像》と菊池一雄《青年》を洗浄しました。

継続して慶應義塾の屋外彫刻をケアされている黒川弘毅さん(武蔵野美術大学/有限会社 ブロンズスタジオ)と、市民グループによる公共的屋外彫刻保守活動に従事されているお二人の方が、講師としてお越しくださいました。

今回は、午後の部の様子をレポートいたします。

柴田佳石《福沢諭吉胸像》を洗浄!!

午後の部の参加者は、三田キャンパス演説館前の柴田佳石《福沢諭吉胸像》周辺に集合しました。

まずは実際に柴田佳石《福沢諭吉胸像》を洗浄しながら、おおよその手順をご紹介くださいました。

はじめにホースで作品全体に直接水をかけながら、表面の汚れを落としていきます。

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次に、液体の洗剤をつけた3種類の大きさのブラシで彫刻の表面を洗浄していきます。

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背中など大きな部分は大きなブラシでストロークをつけて、耳など小さな凹凸がある部分などは歯ブラシを使って丁寧に洗浄していきます。

ちなみにここで使用している洗剤は市販のものなのだそうで、地球に優しい原料を用いているため、彫刻の表面に住み着いている虫を傷つけずに洗浄できるのだそうです!環境にも優しい彫刻洗浄なのですね…!

ここからは洗剤を水で洗い流し、布やブロワーで水気を取っていきます。

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そして水気を飛ばし終わったら、彫刻の表面にビーズワックスを溶かした液体を満遍なくハケで塗っていきます。

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参加者もワックスの塗り残しがないか様々な角度から確認しながら、作業が進められました。

ワークショップ当日は、暑すぎず寒すぎずちょうど良い天気でしたが、猛暑の中の作業などでは、ブロンズ彫刻の表面が太陽光で熱されワックスが溶けてしまうことがあるため、ワックスの配分などを調整することもあるそうです。

ワックスでコーティングされた《福沢諭吉胸像》を前にした参加者の中からは、「あれ?いつもとちょっと違う雰囲気…?」という声がちらほら聞こえてきました。

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ワックスを塗ったことで表面に層ができ、マットで落ち着きのある雰囲気に変わりました。

ここからは、ツヤを出したい箇所の表面を布で磨き、洗浄作業の仕上げに取り掛かっていきます。

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黒川さん曰く、ツヤ出しの作業は「作品解釈に関わってくる重要な部分」なのだそうで、しっかりと光沢を出したい部分、光沢を抑えたい部分を考えながら磨いていきます。

以上が、屋外彫刻洗浄の大まかな流れです。

菊池一雄《青年》を洗浄!!

《福沢諭吉胸像》でおおよその洗浄手順の見学を終えた後、一同演説館前から西校舎裏まで移動し、菊池一雄《青年》を実際に洗浄していきました。

まず洗浄を始める前に、黒川さんが作品の現状を撮影し記録に残しておきます。

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記録作業が終わった後、実際に参加者も《青年》にホースで水をかけていきました。

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ホースのノズルで水圧や水量を調整すると、水を介して感じる彫刻の感触が変化し、とても新鮮でした。

またブラシを使ってゴシゴシと彫刻を洗浄する作業は、彫刻を「作品」というよりは「オブジェクト」として捉えることができる、非常に興味深いものでした。

ブラシを介して「触れる」彫刻の凹凸の感触は、作品の意外な一面に気づく機会にもなりました。

先程の手順同様、ブロワーや布を使い、水分を飛ばし…

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十分に表面の水気が飛ばされたら、作品表面にハケでワックスを塗っていきます!

参加者が「右足まで塗りました!」「肘まで塗ったので、続きをお願いします!」などと互いに声がけをしながら分担して作業する様子が印象的でした。

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ワックスを塗った後は、布で磨いて光沢を出していきました。

この作業は作品の印象を大きく左右するため、少し緊張しながらも作品とじっくり向き合い、参加者も一緒に丁寧に磨いていきました。

「彫刻を洗って、磨いて、見る――触覚鑑賞ワークショップ」を終えて

今回の「彫刻を洗って、磨いて、見る――触覚鑑賞ワークショップ」を通じて、日々の生活の中にある屋外彫刻を、より身近に考える機会になりました。

「触覚鑑賞ワークショップ」という名前の通り、ついつい視覚に頼りがちな鑑賞体験を、より多角的で豊かなものにすることができました。

先日のシンポジウムでも黒川さんがお話しくださった通り、彫刻洗浄は保存作業の一環であると同時に、重要な鑑賞の機会であり、活用と保存が拮抗しない例なのだそうです(シンポジウム関連の記事はこちら)。

みなさまもぜひ、三田キャンパスで屋外彫刻を見かけたら、こうした作品のメンテナンスに携わっている方々にも想いを馳せてみてくださいね。

今回ご紹介した「彫刻を洗って、磨いて、見る――触覚鑑賞ワークショップ」をはじめ、「我に触れよ」展における様々な活動をまとめた記録集が2022年3月に刊行予定です。

最新情報は、慶應義塾大学アート・センターかKeMCoのホームページ等でご確認ください!

文責 : KeMiCo KOYURI

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