【展覧会レポ】旅、どうやってシェアする??「Land-scape-お持ち帰りできる風景」
旅日和の秋を迎えました。旅の思い出や、旅先で見た景色、皆さんはどうやってシェアしていますか??
SNSを通して、写真や動画で多くの人に一斉に共有するのが当たり前になってきた現代。KeMCoでも最近、☟のようにnote記事を活用して旅路の共有を図っています👀
でも、写真や動画がなかったら??大切な景色をどうやって伝えるでしょうか。限られた伝達手段で、どんな景色を伝えたいですか??
展覧会「Land-scape-お持ち帰りできる風景」
KeMCo(慶應義塾ミュージアム・コモンズ)で開催中の展覧会「Land-scape-お持ち帰りできる風景」(2024年10月7日(月)~12月6日(金))は、旅<<<そして景色=「Land-scape」のシェアについて歴史をさかのぼり、西洋中世の写本装飾に見る風景前史から紐解いていく展覧会です。
本noteでは、そんな展覧会会場より作品をピックアップしてレポートしていきたいと思います✨
1. 風景前史-彩飾写本の背景
スタートは中世から。彩色写本の背景として風景が描き込まれています。
色鮮やかな画面が素敵です。この図の主眼とするところはやはり、3人の人物が何をしているか?というところなのでしょうが、引けを取らないくらい魅力的な背景描写が広がっています。
話の登場人物だけを描いても挿絵の機能としては成立しそうなところでこうした壮大な風景を差し込んでくるあたりに作り手・使い手の人々の景色への美意識を感じます。
2. 地誌から地図へ-占有される風景
この章では、17-18 世紀の景観図や都市図が紹介されます。
版画による差し込み図版が伝えるのは、その場所の住み心地などの情報。眺めるための図版というよりも、暮らしていくための、実感を伴った情報としてのイメージのようです。
本を読んでいて頭がこんがらがってきたときに地図が挿し込まれていると、救世主現る!ありがとう!!!と思うのですが、こんな素敵な色付き図版が出てきた日には、小躍りものですね💃
3. イタリアを持ち帰る-グランド・ツアーと理想風景
そしてここからが本格的な「お持ち帰りできる風景」です。英国貴族の子女が卒業旅行として国外に出かけたグランド・ツアー。彼らは最終目的地のイタリアから風景版画を持ち帰りました。
持ち帰られた風景が、クロード・ロランなどの描いた風景画の流行を準備したのだそうです。たしかに、作品を見ると背景の構造物の形状や廃墟的な雰囲気に通ずるものを感じます。
豆本サイズのかわいい本を発見!掌に収まるくらいのサイズ感ですが、旅行中に持ち歩いたものだそうです。自分の中の「何も何も、小さきものは、みなうつくし。」(清少納言『枕草子』)的感覚が刺激されるのを感じます…小さい本が集まっているだけでなんだかかわいい!これを持ち歩いているだけで気分が上りそうです♡
次なる旅行者のために文書を作り、旅のハウツーを伝えていくというのも、重要な「旅のシェア」の一つですよね。
4. 田園を持ち帰る-ピクチャレスクとイギリスの自然
さらにここから、旅の目的が風景自体へと変化していきます。18 世紀後半のイギリスで流行した、「絵になる」(ピクチャレスク)景色を求める旅=ピクチャレスク・ツアー。
ピクチャレスク・ツアーのブームの火付け役=ウィリアム・ギルピンの手がけたガイドブックとクロード・グラス、スケッチ・ブックが旅行者の三種の神器だったのだとか。
どこか懐かしさのある景色ですよね。これまで海外に出向いて異国の景色を持ち帰っていた英国人たちにとって、自国の、しかもほとんど当たり前の風景が、わざわざ訪れるに値するような、「絵になる」素敵なものであると気づく……それってとてもワクワクする旅行だったのではないでしょうか。
5. ツーリズムとノスタルジア-19 世紀の景観
時代は進み、19 世紀のイギリスへ。この頃になるといよいよ写真技術が出てきます📸観光旅行自体も一般化し、観光地の風景はどんどん身近なものとなっていったようです。
憧れでしかなかったかの地の景色を本で、写真で目に出来るようになり、さらに自ら旅に出ることも選択肢に入る…!時代の変化を「お持ち帰り」の風景にも見出すことが出来ますね🧳
6. 風景を写し取る-風景写生のアイテム
旅に出る選択をした人々にとって、そこでしかできないことって何でしょう?その時、その場所に自分自身が行っているからこそできることって??
――写真を撮ることや文章を書くことももちろんですが、18 世紀後半以降のイギリスでは、「風景写生」がブームになったのだとか🎨
この章では、水彩による風景写生指南グッズが紹介されています。
つまるところ、どうしたらエモい色・エモい風景を描けるのか?ってことですよね。現在にもつながるエモーション重視風潮のようにも見えます🍂
7. 持ち帰られた風景-風景を運ぶ葉書
さて、7章からはRoom1をいったん外へ出て、奥へ!入り口はこちらです💁
19 世紀も後半になると我らが福沢諭吉先生しかり、慶應ゆかりの人物が旅に出かけた様子を辿ることが出来ます。
こちら(⇓)は20世紀前半に人気を博した、ドイツ・ベデカー社出版の旅行ガイドブック。今もよく見かける某歩き方系ガイドブックみたいなことでしょうか。
やり取りされた絵ハガキには時々書き込みも見られます👀
ポストカードって今や自宅で飾る用と化しているような気がしますが、旅先からその土地のポストカードが届くと、無事辿りつけているんだな…という、消息を知れた安心感と相まって嬉しかっただろうなと思います。風景からつながる交流が垣間見える一コマです。
展覧会を見終わったら:慶應の景色を愛でよう/風景のラウンジ
今回、3階には展示室2つ+風景のラウンジがあるといういつもとちょっと違った構成が取られています。
ここには腰掛けと展覧会に関連する書籍が用意されているので、ひと休み可能。
外側のテラスは、天気の良い日には三田キャンパスの「幻の門」~「旧図書館」が臨める隠れフォトスポットとなっています✨
最後に:シェアしてみよう!お持ち帰ろう!/1階・KeMCoMコーナー
1階まで戻ってきたら、KeMCoMプロジェクトCommon-spaceを覗いてみましょう!
KeMCoMとは?と思われた方はこちら☟
プロジェクターに映し出される景色の共有。ここにはQRコードを介してお客様も参加していただくことが出来ます!お気に入りの画像を大きく投影できるチャンス!?
おわりに
私たちが当たり前に使っている写真や動画、それらの共有場所たるSNSは、情報の内容が克明かつ量も多いうえ、どんどんと新しい情報が流れてきます。
一方、展示に登場する写本や稀覯本(きこうぼん)、版画、絵葉書は、情報に見た人と受け取り手の手触りが上乗せされているようにも思えます。
その場所にあこがれる強い気持ちであったり、送り主が目的地に無事着いたんだなと安堵する気持ち。旅先の景色を誰かと共有したいという気持ちのぬくもりが、各出品作品の手触りとして上乗せされているような感覚。
「お持ち帰りできる風景」から広がる旅の追体験へ、皆さんもぜひいらしてください!展覧会は12月6日(金)まで!
★開催迫る!展覧会関連イベント申込受付中!★
①公開シンポジウム「Land-scape: お持ち帰りできる風景」(要事前申込)
☞お申込みはこちらから!
日 付|2024 年10 月19 日(土) 13:30~17:00(13:00受付開始)
場 所|慶應義塾大学三田キャンパス G-Lab(東館6階)
内 容|本展覧会企画者(松田隆美、桐島美帆) とゲストによるシンポジウム
登壇者|大石 和欣(東京大学総合文化研究科教授)
・・・・杉村 浩哉(栃木市立美術館館長)
・・・・松田 隆美(慶應義塾大学名誉教授)
・・・・桐島 美帆(慶應義塾大学アート・センター学芸員)
②ギャラリートーク(要予約)
☞お申込みはこちらから!
日 付|2024年10月22日(火)13:00-14:00
場 所|慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)
話 者|松田 隆美(慶應義塾大学名誉教授)
※当日のご参加も可能です。お申し込みをいただいた方より優先でご案内いたします(先着順、定員目安:15名程度)。
文責:KeMiCo Honoka