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展示室からのエフェメラ便り✉️③河口龍夫・冨井大裕の二人展〜河口龍夫編〜

KeMCoでは現在「エフェメラ:印刷物と表現」展を3/18(月)から5/10(金)まで開催中!🌸
noteでも複数回にわたってご紹介してきました⏬

今回は会場レポート第三弾🗒✒️Room2:河口龍夫と冨井大裕の二人展からのレポート・河口龍夫編です!

画面外左手(Room1):印刷物エフェメラ
右手(Room2):河口龍夫と冨井大裕の二人展

はじめに

Room2を彩るのは、現代を生きるアーティスト、河口龍夫さんと冨井大裕さんの作品です。

お二人の共通項は、何らかの形で「エフェメラ/印刷物」にタッチした作品を制作されているということ。
エフェメラってなんだっけ?という方はこちらからぜひ⏬✨

しかし、エフェメラ/印刷物へのアプローチは両者で全く異なるそうです。
展覧会カタログを参照してみましょう👀
Room2での、「エフェメラ/印刷物と現代における表現の接続」パートを企画された渡部葉子さん(ミュージアム・コモンズ副機構長/慶應義塾大学アート・センター教授・キュレーター)は以下のように述べられています。

 果たして、二作家の印刷物に対する態度は清々しいまでに異なっていた。まず、何を作品にするか。河口龍夫は自分に関係する印刷物しか作品にしない。ポスター、案内状、招待券、これまで作品になったのは全て自分の展覧会にまつわるモノである。一方、冨井大裕は自分に関係する印刷物は作品にしない。
 そして、印刷物に対するアプローチの仕方も全く違う。河口は色を塗り、描画する。印刷物は描きこまれる。冨井は切れ目を入れ、折り、ホチキスで止める。しかし、ホチキスを外してバラせば元に戻る手の加え方しかしない。

渡部葉子「展示ノートーー印刷物についての2つの態度」『[展覧会カタログ]エフェメラ:印刷物と表現』慶應義塾ミュージアム・コモンズ、2024年、67頁

同じ印刷物でも、自分に関係するものと無関係なもの。そしてエフェメラを表現の場とした時に、元に戻せる表現と戻らない表現。その違いを作品の中に見つけることができるでしょうか。
さあ、展示室へ入っていきましょう😊✨

河口龍夫

1940年兵庫県生まれ。1962年多摩美術大学卒業。筑波大学名誉教授。1965年「グループ〈位〉」を結成・活動の頃から注目を集め「第10回日本国際美術展(東京ビエンナーレ 人間と物質)」(1970年、東京都美術館他)などに出品。1989年には「大地の魔術師たち」(パリ、ポンピドゥセンター)に参加。1960年代から現在に至るまでたゆみない制作活動を展開している。その傍ら、筑波大学を始め、数々の大学で教鞭をとり、常に教育活動にも携わってきた。1960年代の作品発表の初期から「関係」をテーマとし、その探求は現在にまで続く。河口の制作は「見えるもの」「見えないもの」を問い、鉄・銅・鉛などの金属、化石や貝、植物の種子など様々なモノを用いながら、モノの本質に向き合い、「関係」についての思考を続けている。

https://kemco.keio.ac.jp/member-post/tkawaguchi/
最終閲覧:2024/4/2
左:《9粒のひまわり》1999年
右:《見えないものと見えるものへの招待》2008年

こちらの作品では、何やらチケットが画面の中に閉じ込められています。閉じ込められたチケットは、左:京都市美術館「河口龍夫ー関係・京都」展(1999年)招待券、右:兵庫県立美術館・名古屋市美術館「河口龍夫ー見えないものとみえるもの」展(2007年)招待券。どちらも確かに、河口龍夫さんご本人と密接に関わるエフェメラです。

1999年、2007年のそれぞれの展覧会会期終了でチケットとしての役目を終えたエフェメラ=展覧会チケットが、河口さんの手を介して作品となり、制作から10年、20年と経った今、再び人々に見られる対象となり、KeMCoの展示ケースに収められています🎫

興味深いのは、チケットを閉じ込める白いもやっとしたものの素材です。これは実は蜜蝋🐝60度前後で溶け出す材質なので、(やろうと思えば……)再び取り出すことができる、というのです。ひまわりの種も、取り出されたその時には再び花を咲かせるかもしれません🌻そんな可能性を閉じ込めたタイムカプセルのような、ワクワクする作品です⏳

《〈陸と海〉ーそしてその外側ー》2015年

この作品は、河口さんの作品を中心としたトークイベント「トークセッションIII アーティストとアーカイヴ:《陸と海》(1970)を巡って」(↓)の催事ポスターに描き込んだもの。

写真の外側に広がっていく波の様子は、雄大でもあり、デザイン的でもあり。写真と描き込みの相互作用で、カメラを通した見え方と河口さんの目と手を通した見え方が組み合わさって開催情報の伝え手としてのエフェメラに、感覚に訴える要素を追加した仕上がりになっています。

去る4/11に行われた河口龍夫さんのトークイベントに筆者も参加してきたので、書きたいことはまだまだあるのですが……ここはぐっとこらえて、その内容は次のnoteに載せたいと思います😤💪

河口龍夫×慶應のエフェメラが作品に

展示室右壁面 作品の様子

さらに、展示室右の壁面には、河口さんが過去に慶應義塾大学アート・センターで開催された展覧会「[現代美術展]Artist Voice I:河口龍夫 無呼吸」(2021年4月19日〜 7月30日)のポスターから生まれた作品が並びます。

これらの作品はコロナ禍と大きな関わりを持ちます。
一見黄色く塗られた紙飛行機が色とりどりに飛んでいる美しい彩のいくつかのパターンに見えるこの描き込みですが、実はこの彩は感染症が広がり毎日コロナによる死者数が報道される中、河口さんがその日の死者の数だけ点を描き込んだ、という背景があります。レクイエム、追悼としての点。パンデミック、不要不急の外出を避ける、マスク、消毒、自粛……。大学でも、全ての授業がオンラインになり、授業前後の他愛のない会話が消え、会食が消え、サークルでは対面活動の一挙手一投足に許可申請が必要になりました。
あのコロナ禍の閉塞感からなんとか抜け出したいという思いが飛行機を飛ばしているかのように見えてきます。

おわりに:アーティスト・トーク開催🙌🏻

今月、Room2で二人展をされている作家お二方のアーティスト・トークが予定されています🗣河口さんのトークは終了してしまいましたが、noteでもレポートさせていただく予定です🗓️
冨井大裕さんのトークの方は受付中!ぜひお越しください😊

河口龍夫|「長生きしたカゲロウ」 4月11日(木)18:00– ※終了
予約受付中!⏩ 冨井大裕|「経験をみること」 4月20日(土)15:00–

両日とも 聞き手:渡部葉子(慶應義塾大学アート・センター/KeMCo)

※参考文献
『[展覧会カタログ]エフェメラ:印刷物と表現』慶應義塾ミュージアム・コモンズ、2024年


KeMCo企画展「エフェメラ:印刷物と表現」

日付|2024年3月18日(月)~5月10日(金) 11:00–18:00 土日祝休館
特別開館|3月30日(土)、4月20日(土)
臨時休館|4月1日(月)、4月30日(火)~5月2日(木)
場所|慶應義塾ミュージアム・コモンズ(三田キャンパス東別館)    
入場|どなたでもご覧いただけます・無料
主催|慶應義塾ミュージアム・コモンズ、Japan Cultural Research Institute
協力|慶應義塾大学アート・センター
出品協力|東京国立近代美術館アートライブラリ

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展覧会カタログ

文責 KeMiCo Honoka