【守ること、伝えること】文化財の修復を取材!「弘法大師像」#5
この記事は「弘法大師像」(センチュリー赤尾コレクション)修復note第5
回です。
3月の完了まで、いよいよラストスパート!
今回は、裏打ちから、表装までの工程を紹介します。
過去の記事はこちらから↓(詳しい作品紹介もしています)
掛け軸は平面ではないのです!
季節は8月末日まで遡ります。
これまで長らく裏側からご覧いただいていた弘法大師像ですが、ついにひっくり返り、本来の姿になりました。
裏面にはうっすらと墨色の紙が当てられています。これを裏打ちといい、画絹に接している裏打ち紙を肌裏(はだうら)紙といいます。
この紙は、薄く強靭な特徴をもつ薄美濃紙で、本紙(絵の描かれている絹の部分)が、よりよい状態で後世に伝わるために大事な紙です。
この肌裏紙は本来1枚ですが、今回は作品が大きいこと、作品の見栄えの調整のため、厚みが薄く、染める色を変えた肌裏紙を2枚重ねることにしました。
肌裏紙2枚の染めが、作品の見え方に大きな影響を与えます。
思い出してみてください!
旧肌裏紙はとても黒かったですよね💡(#3を読んでみてね)
江戸時代の修復では、傷や補修絹(補絹)を目立たせないために、黒い肌裏紙を用いました。なので真っ黒な肌裏紙が多いのです。
ただそれでは、本来の描線や彩色が消えてしまっている場合もあります。
そこで、今回は、2枚目の肌裏紙をどのような色にするか、作品の見え方を確認しながら決定していきました。
以前、裏彩色について紹介したことがありましたが、
掛け軸は平面ではなく、奥行きがある層構造なのです。
目視で確認しながら肌裏の色を決めていきます
まずは墨色の肌裏紙をあててみます。
つづいて薄茶色、生成色の紙をあてて比べてみましょう。
黒い紙は、背景が沈み込み、像は浮きがありますが、面貌部分は、薄茶色の紙のほうが明るく見えます。
一方、生成色の紙の場合、面貌は明るくなりますが、欠失部分や絹の織目が逆に目に付きます。
とても悩みますが、濃くしすぎると戻せないが、薄めにしたものは3層目で調整ができるため、2層目は、薄茶色に染めた美濃紙をあてることにしました。
そして、1週間後・・・
このように仕上がりました!
ではここからどのような作品にしていくか。
続いて3層目は、美栖紙の増裏紙をあてていきます。
墨色、薄い墨色、薄い茶色の紙をあてて再検討。
検討の結果、3層目(増裏紙)は墨色としました。
完成も目の前! ついに裂がつきました
2024年1月の初旬、ついに肌裏紙、その後の工程が進行し、掛け軸の形状にぐっと近づいた弘法大師像がこちらです❗️
金襴の一文字、草木染めの裂をまとうと、一層印象が華やかになります。
一文字はもう少し古色を付ける予定とのことですが、当初の希望どおり、「温かみのある上品な色」に仕上がりました。
草木染についてはこちら↓
補絹の補彩をしている途中です。全体の調子をあわせていきます。
ただ修復部分をわからなくするのではなく、補絹をグループとして認識できるようにしながら、絵の鑑賞の妨げにならない色味を施す作業です。
修復前は、汚れに加え、白い斑点状のカビ、裏彩色の黄土色の顔料が粉状になり、飛び散ったものが表面に付着していました。
クリーニング、膠による剥落止、旧補絹の取り外し、肌裏紙の取り替えを経て、ずいぶんと印象が変わったのではないでしょうか?
浮き上がったり、粉状になった顔料は乱反射し、白く光ってしまうそうです。剥落止めに加え、肌裏紙が取り替えられたことで、画面が平滑になり、
本来の色、本来の描線が見えるようになりました。
完成まであともう少し。
乾燥させながら補彩した後は、軸木や金具を取り付けて、組み立ていきますよ!
次回note (最終回?!)もお楽しみに。
執筆:松谷芙美(慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師)
協力:株式会社 修護